第105話 トーコさん(みたいな強い魔導師)
戦争が終わり、ローエングリン辺境伯領に凱旋帰国したら。
待ち構えていたトーコさんに滅茶苦茶怒られた。
「スズハ兄は、女王のボクのことを、な・ん・だ・と・思っているのかなー!?」
笑顔でキレながらぼくの左右のほっぺたをうにゅーと引っ張ってくるトーコさんに、
「しゅみませんっ! れもれも、トーコさんなら留守を任せても安心らから!」
「──スズハ兄、そこ詳しく」
トーコさんが引っ張るのを止めたので、ぼくは伸びきって赤くなったほっぺたを優しくさすりながら弁解する。
「そりゃもうトーコさんが城にいてくれるとか、城を守ってくれるって思うと、ぼくらは安心して出て行けるわけですよ!」
「ふーん……スズハ兄の城に、ボクがいると安心するの……?」
「そりゃそうですよ。やっぱり自分の帰るべきところにトーコさん(みたいな強い魔導師)がいてくれたら、安心して戦いにも行けるなって」
「ふ、ふーん……スズハ兄はボクが待っててくれた方がいいんだ……ふーん……」
「(留守の間に敵が攻め込んできても安心できるので)もちろんです!」
「そ、そっか……ならいい……」
怒りモードだったはずのトーコさんがいつの間にか顔を真っ赤になって、ぼくのことを上目遣いで見ながらモジモジしてたけれど、なにに照れているのかは分からなかった。
まあトーコさんの怒りは解けたみたいなので、結果オーライということで。
****
ぼくたちのいない間に、トーコさんとアヤノさんは随分仲良くなったみたいだ。
二人とも頭脳派だし、あとなんか陰謀好きそうだし、相性は良いのかな。
「アヤノとも話したんだけど、今回の戦争の戦勝パレードは王都で開こうと思うんだよ。ねえアヤノ?」
「その通りです。ローエングリン辺境伯とトーコ女王の関係を強調するためにも、連続でこの城での戦勝式典を行うことは避けるべきでしょう」
アヤノさんの言葉を聞いていたユズリハさんもまた、納得して頷いていた。
「なるほどな。いくらスズハくんの兄上の全面的な手柄だとはいっても、王都ではなくてスズハくんの兄上のお膝元での式典が続けば、その関係が疑われるということか。しかもトーコが両方出向くとなれば……」
「はい。トーコ女王を軽視し、辺境伯であるはずの閣下に対して、露骨に擦り寄る
「ボクは別にそれでもいいんだけどさ、バカは切り捨てればいいんだし。でもそうするとスズハ兄が面倒臭いかなって」
「えーと……ご配慮いただいたみたいで、ありがとうございます?」
女王のトーコさんより平民上がりのぼくが重視されるなんて、天地がひっくり返ってもあり得ない話だけれど。
ぼくは空気の読める男なので、きちんと礼を言っておく。
「というわけでスズハ兄には悪いんだけど、ボクと一緒に王都まで来てもらうよ!」
「承知しました」
「盛大な戦勝パレードとパーティーになるように、王都に指示も出しておいたからさ! 期待しておいてね!」
「そこが盛大でも、ぼくは嬉しくないですけどね……」
どちらかと言うと、ケータリングの鮨だけ貰ってきて家で食べたい。
「言っておくけど逃げちゃダメだよ? スズハ兄は今回の主役だから、絶対出席すること。ウエンタス公国から女大公も来るんだし、さすがに外国首脳がいて主役がいないってのも失礼だからね」
「あれ、ウエンタス女大公も来るんですか?」
事前に「ウエンタス公国は戦争に一切関与しない」みたいな書状が送られてきたから、てっきり最後まで知らぬ存ぜぬを通すものだと思っていた。
ぼくがそう言うとトーコさんが苦笑して、
「対外的にはそう突っぱねたって、どう考えても配下を御せなかったウエンタス女大公の粗相には間違いないからね。ウチらは一切敵意がないですよ、ズッ友ですよー、って内外にアピールするためにも、式典に参加せざるを得ないってわけ」
「そういうものですか」
「だからこっちも対外的には見逃すけど、裏ではそれ相応の落とし前をつけてもらうしね──その落とし所がどのあたりかを、ボクとアヤノでずっと話してたんだよ」
「へえ?」
「なんとなく相談してみただけなのに、アヤノが良い案ポンポン出してくるから、つい話が弾んじゃってねー」
トーコさんはそういうの、ユズリハさんに相談するイメージがあった。
なんだか意外。
ぼくの視線に気づいたユズリハさんが、肩をすくめて一言。
「わたしはそういう腹芸は苦手なんだ」
次期公爵家当主としてそれはどうなんだろう。
そう思ったけれど、賢明なぼくは口に出さなかった。
****
それから数日後。
ぼくはユズリハさんに留守役をお願いして、スズハとトーコさんの二人と一緒に、王都へと旅だったのだった。
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