第103話 戦争開始

 国境は当然ながら封鎖されていたけれど、ぼくたちが誠意を見せるとこころよく入国できた。

 具体的には、スズハとユズリハさんが入国を拒否する国境警備隊の石造りの詰め所を、蹴り一発で倒壊させたんだけど。

 その後にスズハが「あなたたちも敵国の兵士ですから、同じようにしましょうか?」と言ったら、無事に通してくれたのだ。


 なんだか酷い脅迫を見たような気もするけれど。

 でも宣戦布告があった以上は、当然の予告であって脅しじゃないんだよなあ。多分。


 それから山を越え森を抜けること数日、現在ぼくたちは崖の上から敵兵の集まる平原を見下ろしていた。

 ぼくたちの眼下には、恐ろしい数の兵士たちが平原にひしめいている。

 なかなかに壮観な光景だった。


「カナデの情報通りだ。こりゃ本当に百万くらい兵士がいそうだね」

「えへん」

「兄さん。ここから観察してみると、兵士の装備がバラバラなんです。やはり寄せ集めの可能性が高そうですね」

「キミ、見てみろ。本陣はあれだろう……ここから20キロくらい離れているな」

「ですね」


 敵兵たちは集まりはしたものの、まだ出発命令はでていないようだ。

 とはいえローエングリン辺境伯領へ続くのは細い山道なので、出発命令が出たにしても順番にしか動けないだろうけど。


輜重兵しちょうへいも結構いるみたいだね。でも戦争の最後までは当然持たないよなあ」

「兄さん、輜重兵って何ですか?」

兵站へいたん、つまり食料とかを運ぶ部隊だよ。これが持たなくなると食料を現地調達しなきゃいけなくなる。ていうか国境を越えたら略奪する気まんまんだよね」

「兄さんは何でも知ってますね! さすがです!」

「ていうか騎士学校に通ってるはずのスズハが、どうして知らないのさ……?」


 ジト目を向けると、スズハはキョトンとしていたがユズリハさんはサッと顔を逸らした。

 王立最強騎士女学園の生徒会長として、思うところがあったみたいだ。


「なあキミ、そんなことよりもだ! 作戦は当初より変更無しで大丈夫だろうか?」

「まあ大丈夫でしょう」


 作戦といっても、ぼくが敵軍の中心に乗り込んで暴れるという単純にして滅茶苦茶雑な作戦なんだけどね。

 ていうか本当に作戦と呼んでいいんだろうか?

 まあ、ぼく以外のメンバーも、ちゃんと役割はあるんだけどさ。

 ユズリハさんは、敵の総大将キャランドゥー侯爵を逃がさない役目。


「ところでユズリハさん、キャランドゥー侯爵はいましたか?」

「敵の本陣の最奥に、侯爵親子とその弟たちの姿を確認している。もし逃げ出すようなら死なない程度にぶちのめして捕縛しておこう」


 スズハとカナデは、情報操作の役目。


「スズハ、カナデ。いけそう?」

「問題ありません。百万人の兵士をぶちのめしたのが兄さん一人であることを、バッチリ煽りまくっておきます」

「心配ない。情報操作はメイドのきほん」

「うにゅー」

「……うにゅ子もね」


 万一のことを考えてうにゅ子も連れてきたけれど、すっかりカナデの頭上でブサイクな犬みたいに垂れきっているのがお馴染みとなった。考えすぎだったかも知れない。


「じゃあ、そろそろ始めようか」


 そう言ってぼくは、ユズリハさんから譲られた刀身二十メートルの大剣を手に持つと、そのまま敵陣のど真ん中めがけて投げ込んで。


「「なっ──!」」


 スズハとユズリハさんが息を呑んだことなど、まるで気に留めることなく。


「戦争開始だね」


 続けてぼくも、崖の上から飛び出したのだった。

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