第87話 わたしの相棒を貴族にしたうえ野に解き放ったのだぞ

 ユズリハさんの言ったとおり、トーコさんは予定よりずいぶん早く到着した。

 そしてトーコさんのすぐ後を追って、調印式を行うための警備兵だとか事務官吏だとか、その後のパーティー用の調理人だとかメイドさん部隊、パーティー用のドレスを仕立てるデザイナーまで順次やってくるとのこと。大いに助かる。


 そのトーコさんは、ぼくたちの話を聞き終えると思いっきり頭を抱えていた。


「いやいやいや、おかしいからそれ……! オリハルコンが見つかっただけでも大陸中を揺るがす大ニュースなのに、その鉱脈ってどういうこと!? しかも彷徨える白髪吸血鬼の子供バージョンとか前代未聞すぎるんですけど!? まるっきり意味が分かんないわ!」

「安心しろトーコ。わたしもさっぱり分からない」

「なに偉そうにバカでかい胸張ってんのよこのアホ公爵令嬢がッッ!」

「ふっ。わたしの相棒を貴族にしたうえ野に解き放ったのだぞ、大きな成果を上げるなど想定内に決まっている」

「そりゃちょっとは期待してたけど! いきなり世界がひっくり返りかねない、どデカい爆弾二つも抱えてくるなんて想定できないっつーの!!」


 目の前でトーコさんとユズリハさんが謎の言い争いをしているけれど、それはともかく。


「トーコさん、ひとまず落ち着いてください。はいお茶」

「あ、ありがと。……やっぱりスズハ兄のお茶は身体に滲みるわー」

「わたしにもお茶を頼む。さてトーコ、女王として今後の方針をどう立てる?」


 お茶をずずずっと呑んで一息ついたトーコさんが答える。


「そんなもんはね、とりあえず保留よ保留」

「なぜだ?」

「情報が足らなすぎるからね。──オリハルコンもうにゅ子も、上手く使えばそれだけで大陸統一できるレベルの激ヤバネタだけど、下手したら逆に大陸まるごと吹っ飛ぶ恐れも大いにあるわけ。だったらまずは、情報を集めまくるしかないでしょ?」

「なるほど。情報が集まるまでは?」

「スズハ兄に預けておくしかないでしょ。幸いにして今のところは平穏無事っぽいしね、まあスズハ兄なら悪い方には転がさないでしょ?」

「わたしもそう思う」

「だよねー。まあ、オリハルコンの採掘くらいはやっていいかもだけど?」

「大規模な採掘はまだやめておいた方がいいだろう。大丈夫だとは思うが、万が一特殊な採掘法でなければオリハルコンがダメになるとかあったら目も当てられない」

「それもそっか」

「とりあえず、目の前の調印式に全力投球するべきだろう……ふふっ。わたしとわたしの相棒の、初めての国際的なお披露目だからな。ドレスはどうすべきか──ううむ、純白のウェディングドレスは戴冠式でトーコに先を越されたし……やはり白無垢か……?」

「ちょ、ボクそんなつもりじゃ!?」

「ほほう。全くそんなつもりが無かったと神に誓えるか?」

「……うん、ごめん。お詫びに費用は全額ボクが出すから、ドレスはユズリハもスズハも三人お揃いで──」

「当然だな」


 目の前で、ぼくにはよく分からないけど重要そうな事項が次々に決まっていく。

 さすが女王と公爵令嬢だと、大いに感心したのだった。

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