第84話 肯定されれば人生設計が根本から崩壊する質問(ユズリハ視点)
「──リハさん、ユズリハさん」
「ふみゅ……?」
ユズリハが目を覚ますと、目の前でスズハの兄が「よかった」と言って微笑んだ。
「キミ……? ここは天国か……?」
「前にも言ってましたね、そんなこと。でも違いますから」
「……えっと……?」
かぶりを振って思考を整理する。
たしか、彷徨える白髪吸血鬼の右腕が光って、大爆発を起こして──
あの大爆発でなんで生きているんだとユズリハが少し考えて納得した。
なるほど、だからスズハくんの兄上が目の前にいるのか。
自分がこうして生きているのは、きっとスズハくんの兄上が治療してくれたからなのだろう。
「わたしを治療してくれたんだな。ありがとう、また命を救われた」
「とんでもない。今回は傷痕もありませんよ」
「それはいささか残念な気もするが──それで、倒したのか?」
「分かりません」
スズハの兄が、苦い表情で空を見上げた。
いつの間にか陽が射していた。何時間も眠っていたようだ。
「死体らしきものは見つかりませんでした。天井から逃げた可能性があります」
「そうか」
天井までは数十メートルあるが、彷徨える白髪吸血鬼の脚力なら飛び越えることは可能だろうとユズリハは思う。
もちろん、大爆発によって死体が確認できないという可能性の方が大きいだろうが。
「いずれにせよ、またキミの勝ちだ。父上やトーコが聞いたら仰天するな」
「まあ今回は、腕みたいな証拠もありませんから、信じてもらえないでしょうけれど」
「そんなことはないさ」
少なくともユズリハの父である公爵や女王のトーコは、一片の疑いもなく信じるに違いない。
「さてと。ユズリハさん、起き上がれますか?」
「ん……ちょっと難しいな」
「手を貸しましょうか?」
「すまん」
そう言うと、気を遣ったのだろうスズハの兄が、抱きかかえるような距離で迫ってきた。
あ、あれ……?
こ、これはいわゆる、ちゅー待ちの距離ではないだろうかっ……!?
降って湧いた幸運に慌てつつも、同僚の女騎士から得た知識をフル回転したユズリハがドキドキしながらそっと目を閉じ唇を突き出して、ちゅー待ちの態勢に──!
「うにゅー」
……うにゅー?
「なんだ……?」
場違いなうめき声にまぶたを開けると、スズハの兄の頭上に幼女が乗っかっていた。
どこから見ても幼女だった。
雪よりも白い髪。血液よりも赤い瞳。
夏のご令嬢を思わせるサマードレスを着ているが、明らかにぶかぶかでサイズが合っていない。
「なあキミ。なんだこの、彷徨える白髪吸血鬼そっくりの幼女は……?」
「…………さあ?」
****
それからスズハの兄とユズリハが調べた結果、この幼女が何者なのかははっきりしないことが分かった。
なにしろ何を聞いても「うにゅー」としか答えない。
特徴はまんま彷徨える白髪吸血鬼なのだが、スズハの兄たちへの敵意は全く見られない。
右腕は普通にあった。
そしてユズリハには、どうしても確認しておかなければならないことが一つ。
「まさか、キミの隠し子じゃないだろうな……?」
「そんなわけありませんよねえ!?」
「冗談だ。いや、あながち冗談でもないのだが」
肯定されれば人生設計が根本から崩壊する質問を否定されて、ユズリハはひとまず胸をなで下ろした。
「ひょっとして、彷徨える白髪吸血鬼の生まれ変わりだったりするのか?」
「ううん……死んでから生まれ変わるには時間が短すぎる気もしますが」
「なら、彷徨える白髪吸血鬼の子供か?」
「その場合、彷徨える白髪吸血鬼が生き延びてたら連れ戻しに来るんですかね……?」
「冗談じゃないな」
「王族とか高位貴族とかの秘伝で、何か分かりませんか?」
「確認はするが望み薄だろうな……なにしろ見た者全てを殺すと伝承される悪魔だ」
スズハの兄が幼女を頭に乗せたまま話し込んでいると、スズハが「んっ……」と声を漏らす。どうやら目が覚めたようだ。
「ちょっと起こしてきます」
「うん」
ユズリハも立ち上がる。とりあえず考えるべきことが多すぎた。
その後、自分と完全に同じ流れをたどった上に「うにゅー」されてもちゅー待ちを続けやがったスズハの後頭部にチョップをくれて、爆発で大半が吹き飛んだ鍾乳洞を眺めていると……
「……あれ、ひょっとしたらオリハルコンじゃないのか……?」
ミスリルよりもさらに希少な幻の金属。
オリハルコンの鉱床が、剥き出しになっていた──
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というわけで今回はここまでです。
次章はまだなにも考えてないのですが、一、二ヶ月以内には更新できればと思っております……!
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