第73話 ツインテールマニア、褐色銀髪ロリ爆乳ツインテールメイドに出会う
ある日、ぼくとユズリハさんが執務室で書類に埋もれていると、門番の兵士が来客を告げた。
「商人?」
「はっ。辺境伯閣下とは以前、お目にかかったことがあると申しておりますが……追い返しますか?」
「ううん、会うよ」
「では応接室にお通ししますか?」
「悠長に応対してる余裕はないから、こっちの執務室に通してくれないかな?」
「はっ。かしこまりました!」
早足で出て行く兵士の背中を見送って、ぼくはこっそりため息をついた。
現状、はっきり言ってローエングリン辺境伯領はヤヴァイ。
なにがヤヴァイかって、人材がまるっきり皆無なのだ。
兵士とかの軍事系はまだしも、内政系の人材が枯渇しまくっている。
そして、そんな事態に陥った原因といえば。
「すまないキミ……わたしが、一族を根こそぎ粛正してしまったばかりに……」
ぼくの横で書類に埋もれながらしゅんとしているユズリハさんが、前辺境伯とその取り巻きたちを容赦なく叩き潰してくれちゃったからである。
なんでも前の辺境伯は長年にわたって巧妙に不正をして蓄財し、主要な役職を一族で独占し、前のクーデターの大きな財源にもなったのだという。
しかもそれのことを追求されると、完全に開き直って一切の調査を拒否、王家とユズリハさんに反旗を翻して。
その結果、ユズリハさんの手によって一族郎党まるっとまとめて粛正された。
その後いままでローエングリン辺境伯領はウエンタス公国に占領されていたので問題は表面化しなかったけれど、敵軍が撤退した後ぼくがローエングリン辺境伯領を統治することになった現在、非常に困る事態が浮き彫りとなった。
領地を管理する文官がまるでいないのだ。
「ユズリハさんのせいじゃありませんよ。不正蓄財ばかりしていた責任者とかその子飼いが残っていても、どうせ使いものになりませんから」
「ううっ……だがこの膨大な書類の山を押しつけるだけでも、生かしておく価値があったのかもしれない……」
「いやいやいや。書類を勝手に捏造されたり、中も見ずにサインされても困りますからね」
ぼくがペンを動かしながらユズリハさんを慰めていると、兵士が来客を連れて戻ってきた。
そこにいたのは、たしかに見覚えのある顔で。
「えっと、アクセサリーショップの店員さん……?」
「お久しぶりでございますな」
いつぞやスズハの誕生日プレゼントを買うために、ユズリハさんに連れて行ってもらったお店の店員さんがそこにいた。
その後ろには商人仲間かお弟子さんか、フードを目深にかぶった若者も連れている。
ぼくが何度か会っただけのこの店員さんのことをはっきり覚えているのは、なかなかに濃ゆいキャラだったからで。
なにしろこの人、見た目はきちんとした老紳士なのに、なぜかやたらとツインテールを押してくるのだ。
「今日はどうしてこちらに? 商用ですか?」
「なに、お客様が辺境伯になられて領土を取り戻したと聞きましたのでな。ならばワシもこちらで商売しようと考えまして、まずはご挨拶に伺ったのですよ」
「それはそれは」
優秀な商人である条件は、機を見るに敏であることと言われている。
目の前にいるツインテールマニアの老紳士が優秀かどうかはともかく、商人にとって魅力ある土地であると認識されればありがたいのだけれど。
商人には商人同士のネットワークがある。
店員さんには他の商人のみなさまに、ぜひローエングリン伯爵家領の魅力を広めていただきたいと思う。
「そういうことなら、ぼくも是非きちんとご挨拶したいんですが。すみません、今ちょっと椅子から立ち上がれない状況で」
「お気になさらずとも結構ですぞ。ワシとて商人の端くれ、辺境伯が書類に埋もれなくてはならぬ事情はよく理解しておりますゆえ」
「それもあるんですが……そうだ、ちょっと机のこちら側に来てもらえますか?」
ちょっとした悪戯心が芽生えたぼくは、事情を説明する代わりに店員さんをこちらに招き寄せた。
「ふぉっふぉっふぉっ、いかがなされたのですかな──ッッ!!??」
執務机のこちら側まで来た店員さんは、ぼくの膝の上を見て跳び上がらんばかりに驚いた。
ドッキリ成功。
そう。現在ぼくの膝には、褐色銀髪ロリ爆乳ツインテールメイドであるカナデが、ネコのように身体を丸めて
ツインテールマニアの店員さんはぼくの想像を遙かに超えてびっくりしてくれたみたいだ。さすがはマニア。
「こ、こここ、この娘はっ……!?」
「この子は、ローエングリン伯爵家で現在唯一のメイドです。今はぼくの膝の上で寝てますけど、これでも優秀なメイドなんですよ? とくに掃除はすごく得意で」
「…………確かに、掃除は得意中の得意でしょうな…………」
「ええ。こんなに広い屋敷なのに、午前中にはもう掃除を終わらせるんだから本当に優秀です」
なぜか額に脂汗を掻く店員さん。しかも全身がワナワナと震えている。
その様子はあたかも、目の前にいきなり伝説の暗殺者が現れたかのような大げさなもの。
けれどぼくの膝にいるのはもちろん、伝説の暗殺者なんかではなくただの褐色銀髪ロリ爆乳ツインテールメイドでしかないわけで。
つまりそれだけ、店員さんがツインテールを好きということなのだろう。
「どうです? ツインテールは別にしても、ネコみたいに丸まってる姿が可愛いでしょう?」
「そ、そうですな……今にも心臓が止まりそうなほどに……」
「あはは、それはいくらなんでも大げさですよ」
「大げさではありませぬ……その人食い虎、いや豹を平然と手懐けるとは……改めて心底感服いたしましたぞ……!」
言葉だけ聞くと冗談だけど、店員さんの口調も表情もガチだった。
どうやらぼくは、ツインテールメイドのおかげで謎の高評価を獲得したみたいだ。
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