8章 ミスリル鉱山と吸血鬼ふたたび
第72話 ちゃぶ台だと、キミの顔がより間近に見られるし
大変お久しぶりでございます。
本日から10日ほど(予定)更新再開いたします。
大変ご無沙汰しておりますので、以下に簡易キャラ表など添付しておきます。
スズハの兄:主人公。トーコに嵌められローエングリン辺境伯に。
スズハ:主人公の妹。さすおに担当。
ユズリハ:公爵令嬢。くっころ担当。
トーコ:王女から女王へ。ボクっ娘。
カナデ:褐色銀髪ロリ爆乳ツインテールメイド。
アヤノ:ウエンタス女大公。不幸そうな顔をしていると巷で評判。
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たとえお貴族様になっても、立派すぎる城の所有者になっても。
人間というものは、そうそう代われないもので。
「みんなー、ご飯ができたよ」
「「わあぃ」」
ローエングリン辺境伯家の本宅は、まさにお城だった。
それも半端じゃない豪奢なお城。
比喩じゃなく、もしかしたらトーコさんのいる王城より大きいかもしれない。
防衛のため切り立った崖の上に立てられたローエングリン城は、霧がかかった朝などにはまさにお伽噺の舞台のような荘厳な雰囲気を醸し出す。
もちろん食堂だって滅茶苦茶豪華で。
ピカピカに磨き上げられた一枚板の長いテーブルに、繊細な彫刻が施された椅子がずらりと並び。
壁には歴代ローエングリン辺境伯の肖像画がずらりと並び、天井には立派すぎるフレスコ画まで描かれていた。多数の天使と悪魔が争っている、たぶん神話かなにかのシーンが天井いっぱいに広がっている。
ぼくはみんなのご飯を持って、そんな貴族過ぎる食堂に入り。
豪奢な椅子の並ぶ豪奢なテーブル──をスルーして、食堂の隅に置かれたちゃぶ台に向かった。
そこには、お箸を握りしめて待ち構えているスズハとユズリハさんが座り。
その後ろにクールなメイドさんの体裁を保ちつつも、よだれが隠せないカナデが立っていた。
「今日の晩ごはんはサバの味噌煮だよ」
「「いただきます!」」
言うが早いかご飯にがっつくスズハとユズリハさん。
サバ味噌にはちゃぶ台がよく似合う。
「今日も兄さんの手料理は最高です!」
「まったく同感だ。それに、このちゃぶ台で食べるのもいい。キミとの距離がより近く感じられて、食事もより美味しくなるというものだ」
「いえ、本当はちゃんとダイニングテーブルで食べるべきなんでしょうけど……なんだか慣れなくて」
ぼくだって、お貴族様仕様のダイニングテーブルで食事をした経験くらいある。ていうかユズリハさん宅で食事をいただくときは、いつもそうだったわけだし。
けれど実際に、自分の家の毎日の食事として、使い慣れたちゃぶ台から超豪華仕様のダイニングテーブルに移ってみると。
どうにもご飯が、味気なくて仕方なかったのだ。
多分アレだ。
ぼくの根っからの庶民根性が、お貴族様色に染まった自宅の食卓を拒否したのだろう。
「すみませんユズリハさん。ちゃんとしたテーブルがあるのに、食堂の隅でちゃぶ台に座らせたりして」
「なにを言う。わたしはキミの、心づくしのちゃぶ台手料理が大好きなんだぞ。そ、それに……」
「それに?」
「ちゃぶ台だと、キミの顔がより間近に見られるし……ああいやなんでもない!」
いきなり顔を真っ赤にして首を振るユズリハさん。
骨が喉に刺さったのかと思ったけれど、そうでもなさそうだ。
そしてこの状況で、ユズリハさんのほかに気にかかるのがもう一人。
「ねえカナデ。カナデもいっしょにご飯食べない?」
「……そんなことは許されない。カナデはメイド、メイドはご主人様たちと一緒にご飯を食べたりしない」
「ご主人様のぼくが頼んでるんだけどなあ……」
ずっとこうなのだ。
カナデはプロのメイドであり、そしてメイドは主人の家族と一緒に食事をしないというのは常識だという。
最初はそれを聞いて、ぼくも尊重しようとした。
カナデは一人メシを好む派かもしれないし、いちおうは雇い主のぼくと一緒に食事というのも気疲れするのかとも思ったし。
でもねえ。
満面の笑みでぼくに話しかけながらご飯を頬張るスズハやユズリハさんに、カナデがほんの一瞬羨望のまなざしを向けたり。
ぼくたちが食事を終えた後、一人でご飯を食べるカナデの背中がなんとなく寂しげだったり。
そういうのを見ていると、やはりみんなでご飯を食べた方がいいんじゃないかって思ったのだ。
そして、ぼくの意図を読み取ったスズハとユズリハさんも援護射撃をしてくれて。
「兄さんの言うとおりです。ほかほか出来たての兄さんの手料理を前にがっつこうとしないなんて、本気で無礼千万です。欲しくないなら代わりにわたしが全部食べますが?」
「それにメイドは給仕が仕事だが、スズハくんの家の食卓では給仕するものもないからな。ならば主人の望みを叶えるのもまたメイドの仕事だろう」
「……わかった。じゃあ、一緒に食べてもいい……?」
「もちろん」
ぼくの言葉とともに、スズハとユズリハさんが茶碗と皿を持つ。
カナデの席を作るため、場所を空けようというのだ。しかし。
「動く必要はない」
「え……? うわっ」
「「なっ!?」」
カナデが近づいてきたかと思ったら、流れるような動作でぼくの膝の上に滑り込んできた。
「なっ、なにをしてるんですかカナデさん!? 兄さんから離れなさい!」
「それは不可能。ご主人様の命令をこなして、かつ二人のじゃまをしないためにはこうするのが一番」
「そうなんですかユズリハさん!?」
「くっ……たしかにメイドが自分の食事のために、主人の家族を動かすなど言語道断だが、しかし……!」
「だからって兄さんの膝の上に座っていいはずがありません! あとユズリハさんは家族じゃなくてお客様だと思いますよ?」
そんな、興奮しながら会話をする二人をガン無視して、カナデは膝の上に座りながらぼくに上目遣いで聞いてきた。
「カナデはここがいい。……だめ?」
寂しそうな目で聞かれては、断れるはずもなく。
「仕方ないなあ」
その日、ぼくの家で食卓に座る人数が一人増えた。
ぼくの膝の上で全身を脱力させるカナデは、にゃんこみたいで癒やされる。
ていうか、それくらいの癒やしがなければやってられなかった。
それくらい、ローエングリン辺境伯家の現状は苛烈極まるものだったのだ。
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