第68話 よとぎ
眠れない。
宿屋のベッドの中でぼくは、これからどうすればいいかずっと考えていた。
(普通に考えれば、ユズリハさんの言っていた作戦が一番なんだろうけど……)
ユズリハさんなら、数万の兵士も蹴散らせる。
それは純然たる事実だ。
まさか敵兵たちが変種のオーガの大群より強いとは考えにくい。
そしてこちらの戦力の超少数精鋭ぶりを考えれば、いきなり敵の司令部を叩くのが一番。それも間違いないだろう。
普通に戦えば
でもなあ。
(それでも、住民への被害は免れないんだよな……)
綺麗事で戦争はできない、というのは頭では分かっている。
けれどできるだけ、一般市民への被害を少なくしたいという気持ちはどうしても強い。
きっとぼく自身のココロが平民のままだからなのだろう。
最近なぜか貴族にさせられたけれど、平民出身なのは一生変わらない。
(ん……?)
ベッドに寝て目を瞑って考えていると、天井裏に気配を感じる。
そのまま様子を窺っていると、天井の板が音もなく外れて、誰かが部屋の中に忍び込んだ。
誰だろう。
ユズリハさんを狙った暗殺者が、間違ってぼくの部屋に入ったのだろうか?
「……よく寝てる」
その声に薄目を開けて確認すると、ベッドの横にメイド服姿のカナデが立っていた。
どうしてカナデが天井裏から侵入してきたのか、さっぱり分からない。
これからどうするつもりなのかと思いながら寝たふりを続けていると、カナデが予想だにしない行動に出た。
自分のメイド服を脱ぎ始めたのだ!
「……ボタン、おっぱいで吹き飛ばさないように……ご主人様がおきちゃう……」
なんとか聞き取れる位の独り言を呟きながら、カナデが慎重にブラウスのボタンを外すと、抑えつけられていた発育過剰なロリ爆乳が解放されてたゆんっと揺れた。
続けてカナデがスカートのボタンも外し、スカートが床に──
「ちょっとカナデ!? 一体なにやってるのかなあ!」
「……あ。起きた」
「起きたじゃないよ! 天井裏からぼくの部屋に忍び込んだかと思ったらいきなり脱ぎだして、どういうことなのさ!?」
「……えーっと……よとぎ?」
「
「えちちな銀髪ツインテールロリ爆乳美少女メイドがご主人様によとぎするのは貴族の常識。……いっておくけど、けっしてご主人様を胸の谷間に挟んだどくばりで暗殺しようとしたわけではない。けっして」
「なんで繰り返すのさ! 逆に怪しいよ!」
「大事なことなので二回いった」
ずっと平民だったぼくには貴族社会の常識がさっぱり分からず意味不明すぎる。
あとそれ以外にも、侵入方法からしてツッコミどころ満載だ。
「だいたいなんで、普通に扉から入ってこないのさ!?」
「……あの扉には細工がされてる。スズハやユズリハに気づかれずに出入りすることは難しい」
「え、マジで?」
「マジ」
全然気づかなかった。
ぼくの知らないところで、スズハかユズリハさんかは分からないけど、ぼくの安全を気遣ってくれていたのだろう。感謝しなければ。
「でもだからって天井裏から来なくても」
「……そんなことない。カナデはメイド、メイドの仕事といえばそうじ」
「はあ」
そういえば、暗殺のことも俗に掃除って言うよね。べつに関係ないけど。
「そして、そうじといえば天井裏。なのでカナデは天井裏を知りつくしている」
「そうなの!?」
「もちろん。しかもこの宿だけじゃなくて、どんな屋敷の天井裏でも、カナデにかかれば庭もどうぜん」
「凄いなメイドさん!」
「むふふっ」
無表情ながら、またも鼻の頭を膨らませてふんぞり返るカナデ。
この子ってば顔に出ないだけで、実は表情豊かだよね。
「……ってカナデ、ちょっと待った。今どんな屋敷の屋根裏でもって言った?」
「うん」
「本当にどんな屋敷でも?」
「……カナデのメイド情報網をなめないでほしい。すこし時間をもらえば、どんな屋敷の屋根裏も調べてくる」
「たしかに、さっき貰った各都市の情報量も凄かったもんね」
──けれど、これで道筋が見えてきた。
どうやってできるだけ市民の被害を少なく、敵軍から占領された都市を取り戻すか。
その作戦の鍵は、メイドのカナデが握っている。
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