第65話 銀髪でツインテールで褐色肌でロリ爆乳、しかもメイド服

 野を越え山を越え、ぼくたちがようやく辿り着いたのは小さな宿場町だった。


「この宿場町を越えた先からローエングリン辺境伯領、つまりキミの領地だ」

「でもユズリハさん? ぼくの領地って、全部敵に占領されてるんですよね?」

「そうだ。だから今は事実上、この宿場町が国境ということだな」


 そんな話をしながら宿場町に入ると、通りの真ん中に立った一人の少女がこちらを見ていた。

 その少女は無表情で、辺境に全く似つかわしくない、恐ろしく可憐な美少女だった。

 その少女は銀髪でツインテールで褐色肌でロリ爆乳、しかもメイド服まで着ていた。


 あえて言おう。

 胡散臭さの宝石箱だと。


「に、兄さん? アレは一体……?」

「しっ。見ちゃいけません」


 触らぬ神に祟りなし。

 ぼくたちは宿を探すフリをしながら、ごく自然に道を逸れて──


 シュンッ、とまるで瞬間移動したかのように、メイド少女が自然にぼくたちの行く手を塞いだ。

 ええええ!?


「その、えっと──?」

「……あたらしいご主人様。迎えに来た」

「いやきみ身のこなしがガチの暗殺者だよねえ!?」

「……気のせい」

「気のせいじゃないよ!? いまシュンって動いたよね、シュンって!」

「音もなく、ご主人様のそばにそっと待機すしのびよる。それが有能メイドの能力」

「マジで!?」


 でもそう言われれば公爵家で見たメイドさんも大概万能だったし、本当なのか……?


「絶対に違うと思います、兄さん」

「絶対に違うな。公爵家の娘として断言しておくが」

「……そんなのはささいなこと。どうでもいい」


 まあ確かにできるメイドがどんなのかはさておいて。


「えっと、キミは一体?」

「カナデはローエングリン辺境伯家に仕えていたなかで、唯一生き残ったメイド。名前はカナデ。よろしく」

「そうだったんだ」

「カナデの身長は142センチ、体重はひみつ。スリーサイズは上からひゃく──」

「そんなこと言わなくていいからね!?」

「でも前のご主人様は、すごく聞きたがった」


 きょとんとしたカナデの様子に、どういうことかとユズリハさんを見ると。

 なぜかユズリハさんは遠い目をして。


「ああ、なんというか……ローエングリン辺境伯家の一族は、揃いも揃ってロリ巨乳が大好物な家系でな。何を隠そうわたしもトーコも、幼い頃は舐め回すようにガン見されたものだよ」

「うわぁ……」

「それでも貴族のアレな性癖としてはまだ大人しいほうだから……」

「……大人しくない性癖っていったい……?」

「聞きたいか? 某貴族に小一時間、屍体性愛ネクロフィリアについて熱く語られた話とか」

「謹んで遠慮します」


 貴族の性癖の闇は深い。はっきりわかんだね。


「……というわけでカナデは、これから新しいご主人様にお仕えする」

「はいはい」


 こうしてぼくたち一行に、すごくキャラの濃ゆいメイド少女が加わったのだった。


 ****


 カナデの属性の過剰っぷりはともかく、有能だというのは本当のようで。


「これ。いまの敵軍の占領状況をまとめたもの」


 宿屋での作戦会議で、カナデがそう言って出した一連の報告書は、ぼくたちが欲しかった情報そのものだった。


「兄さん! これ、軍のいる場所と人数がどれだけか、詳しく書いてあります……!」

「それぞれの街の被害状況や食糧備蓄なんかも調べてあるぞ、キミ!」

「それどころか、司令官の名前や風貌、その戦い方のクセまで……!」

「えへん」


 褒めまくられたカナデは一見無表情なんだけど、ふんぞり返った鼻の頭が膨らんでいるので、多分ドヤ顔してるんだと思う。


「これだけ情報があれば、作戦も立てやすくなるな。キミ」

「はい、もちろんです」

「これまではただ単純に、見つけた敵兵を片っ端から殴り殺せばいいと考えていたが──」

「それは無作戦すぎませんかね!?」

「冗談だ。単純かつ有効な作戦だが、それをやると街に壊滅的な被害が発生するからな。しかし」


 ユズリハさんはふむりと顎に手をやって、

 

「この資料だと、戦争とは思えないほど建物の被害が無いな。恐らくは戦闘になる前に、こちらの王子軍が逃げ出したのだろうが」

「なるほど」

「やはりそれぞれの街で、司令部を直接襲撃するのが一番だろうか。キミはどう思う?」

「そうですねえ……」

「わたしとキミの二人で乗り込めば、それぞれの街の司令部を壊滅させるなど朝飯前だろう。もちろんキミ一人でも楽勝すぎるだろうが……わ、わたしはキミの背中を護らなくてはいけないからな! 相棒として!」


 ていうかそれ、ユズリハさん一人で十分すぎる。むしろぼくが足手まといというか。

 でもなあ。


「……その作戦だと、街への被害ってどれくらい出ると思います?」

「街の中心部が致命的な被害を受けるくらいじゃないか? 我々がターゲットにするのは司令官のいる建物だけでも、敵の魔術師が黙って見ているとも思えん。攻撃魔法の流れ弾で周囲が破壊されるのは避けられないだろう」

「それだと住民にも被害が出ますよね?」

「まあ多少はな。ただし籠城戦をされる場合に比べれば、被害は格段に少ないが」

「野戦で敵兵だけ相手にする、って方向には出来ませんか?」

「……難しいだろう。オーガの大樹海の討伐劇でキミの強さは他国にも広まっているし、憚りながらこのわたしもそれなりに有名だからな。頭がパーで絶望的な実力差も分かっていない司令官の一人や二人は野戦を仕掛けてくれるかもしれんが、最低限の知能があれば籠城戦しかあり得ない」

「ふむ……」


 お貴族様の感性でどうなのかは知らないけれど。

 やはりぼくとしては、戦争で街の人が犠牲になるのは避けたいわけで。

 それに司令部として接収されるような建物っていうのは、大抵その街のシンボルであって、建て直せばいいってものじゃない場合が多い。


 なんとかならないかなあ、と考えるぼくなのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る