7章 辺境伯領を取り戻せ
第63話 領地はみんな敵国に占領されてるから
何が何だか分からないまま辺境伯になった翌日、ぼくはトーコさんから王宮に呼び出された。
女王の執務室に座るトーコさんの横には妹のスズハとユズリハさんの姿。
なんでも昨日は三人で女子会をしたそうだ。
新女王の即位式の日に、その女王と公爵令嬢相手をプライベートで独占とか、なんというか兄として鼻が高い。
ウチの妹ってば、ひょっとしてこの国最強のコネの持ち主なのではなかろうか? なんてね。
まあそれはそれとして。
「どうかな、スズハ兄? 貴族になって一日経った感想は?」
「もう滅茶苦茶大変でしたよ……」
「へえ?」
「あれから舞踏会の最中どころか終わってもずっと、見知らぬ貴族に話しかけられ続けたんですからね? お鮨もロクに食べられないし、ようやく家に逃げ帰ったら真夜中だし。あと今朝になったら、家に山のような量の手紙が届いてたんですけど?」
「手紙ねえ、中身は見たのかな?」
「いえ全然。だって挨拶なら昨日の舞踏会で、あそこに出席してた貴族全員とした勢いですし。なんであんなに手紙が来るのかもさっぱりで」
「それ多分、ほぼ全部お見合いとか婚姻の申込みだから」
「えええっ!?」
「まあこの国で今、飛ぶ鳥を落とす勢いのスズハ兄を取り込みたいと思わないアホ貴族なんているとは思えないし、そんな低脳貴族はこの前ユズリハがみんな粛清しちゃったからねえ?」
トーコさんが笑顔で恐ろしいことを言うと、その横でユズリハさんも当然のように頷いて。
「そうだな。しかしキミにはゆめゆめ忘れないで欲しいのだが、キミを最初に見いだしたのはこのわたしだからな? そしてわたしも父様も、キミの後見人としての立場を絶対に手放すつもりはない。もちろん分かっているだろうがな──?」
「は、はい……?」
「ああ、もちろんキミの結婚相手についても十分な吟味を重ねている。無論のことだが辺境伯としても、さらに功績を重ねて爵位が上がっても、釣り合いが取れる相手を選ぶつもりだから安心するといい」
「いや必要ありませんから!」
「た、ただまあ、キミに相応しい爵位と戦闘力を兼ね備えるとなると……少々ガサツな女が選ばれる可能性も大いにあるのだが、その辺は我慢してもらいたいというか……!」
「なんで嫁さんと戦闘力が関係あるんですかねえ!?」
「そ、それはキミの生涯の相棒ということになれば、キミを護るにふさわしい実力者の必要があるだろう! キミの背中とか!」
「結婚相手の条件が物理的すぎる!?」
ただでさえモテないぼくにそんな条件をつけたら、それこそ一生相手がいなくなってしまう。
さすがに冗談だと思いたい。
「──でも言われてみれば、たしかに昨日、貴族の皆さんからかなり聞かれましたね」
「ふむ。キミ、なにを聞かれた?」
「ぼくは結婚してるのかとか、付き合ってる相手はいるかとか。ただの世間話の話題だと思ってましたけど」
「まあ情報収集は大事だからな。縁組みはダメ元にしても、今のうちから近づいておくのは重要だし」
「はあ……」
「いくら救国の英雄とはいえ、まだまだキミは貴族社会では新参者だ。だから今のうちから唾を付けておけば、キミがもっともっと偉くなったときに『辺境伯はワシが育てた』って感じの後方腕組ヅラもできようというものさ」
「これ以上偉くなる予定は一ミリもないんですが?」
「それは解釈の違いだな。忠告しておくが、王都にいる限りこれから見合いの申込みは日に日に増していくだろう。なんたって、自分が取り入る前に誰かに攫われたら終わりだ」
「なんてこった!」
貴族の皆様による、ぼくへの謎の期待が辛いんですが。
「どうすればいいんですかねえ……?」
「そんなの簡単だよ、スズハ兄」
「トーコさん!」
さすが女王、こんな時の対処法も知っているとは助かる。
いまぼくがこんな状況になっているのが、ほとんど全部トーコさんのせいなのはさておき。
「王都にいる限りは他の貴族に捕まるんなら、ほとぼりが冷めるまで自分の領土に逃げてればいいんだよ」
「ぼくの領土? そんなものあるんですか?」
「そりゃ辺境伯だもの。あるに決まってるよ」
「そういうものですか、てっきり名ばかりかと」
「まあ実際の統治は執事にでも任せればいいんだけどさ。それにしたって新領主になったわけだし、挨拶と視察も兼ねて自分の領地に避難してればいいんじゃないかな?」
「なるほど」
貴族たちからも逃げられるし挨拶もできて一石二鳥、さすがはトーコさんだと感心していると。
「だからその時に、ついでに領地を取り返してくるといいよ」
「……はい?」
「言い忘れてたんだけど、スズハ兄の領地は今、みんな敵国に占領されてるから」
……なんだってえぇぇ!?
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