第62話 わたしの相棒は、どうしてあんなに自己評価が低いのだろう?(ユズリハ視点)

『かんぱーい!』


 王城の一角にある女王の自室で、三つのグラスがチンと音を鳴らす。

 そこにいるのは部屋の主の新女王トーコ、そしてスズハとユズリハ。

 即位式の宮中舞踏会が終わった後、トーコがプライベートなお疲れ様会をやろうと二人を誘ったのだった。

 ちなみに女子会なので、スズハの兄はここにはいない。


「二人とも、今日は本当にありがとうね!」

「いえ、女王様こそ本日はおめでとうございます」

「ねえスズハ、ボクはスズハのこと戦友だって思ってる。ボクもスズハのこと呼び捨てにしてるし、だからスズハもボクのことはトーコって呼んで?」

「え!? で、ですがわたしは、兄さんと違ってなんの功績も……」

「女王陛下だなんて思われるより、スズハに戦友扱いされる方がよっぽど嬉しいな」

「──は、はいっ!」


 感激するトーコを横目で見ながらユズリハは思った。

 今の発言、まるっきり嘘じゃないだろうけど、本心は恐らく別にある。

 きっとトーコは、スズハくんの兄上が自分を呼び捨てにするハードルを下げるため、わざわざスズハに呼び捨てするよう伝えたのだろう。

 こういう周囲から攻める搦め手は、貴族の得意分野である。


「今日は無礼講だよっ! ボクを一番支えて、助けてくれた女子の二人だからこそ、今日はとことん飲んで飲んで語り尽くそうよ! どんな秘密のぶっちゃけトークもオールオッケー!」

「はいっ!」

「うむっ!」


 もちろん、言うまでもなく三人とも分かってる。

 女子という枠組みを外したとき、一番が誰かということなんて。


 ****


 女子会のお約束、もしくは華。

 それはもちろんコイバナである。

 とはいえこの三人の間では、誰が誰を好きかなんて話には全くならない。

 けれど話題に上がるのは、どうしてもとある一人の青年のこととなり──


「──わたしの相棒は、どうしてあんなに自己評価が低いのだろう?」


 ユズリハが常々思っていた疑問を口に出すと、トーコがさも当然のように答えを返した。


「スズハ兄がユズリハの相棒かどうかは別として、あんなの韜晦とうかいに決まってるでしょ」

「トーカイ?」

「そう。自分の才能を知ってるけど敢えて黙ってるの。しらばっくれてるってこと」

「とてもそうは見えないんだが?」

「でもいざ戦闘になるとユズリハの何倍も敵を請け負ってるし、出す指示も的確極まりないんでしょ? そんなの自分の実力を把握してなきゃ不可能だから」

「ううむ……」


 確かに、彷徨える白髪吸血鬼との激戦でもオーガとの死闘でも、スズハの兄はユズリハやスズハなどとは比較にならない危険な役割を自らに課していた。


「確かに、そう考えれば合点はいくがしかし──」

「わたしの考えは少し違います」

「スズハ?」

「へえ、じゃあ妹として兄さんのことをどう見てるのか教えてよ」


 二人の最上位貴族の視線を受けたスズハはこほんと咳払い一つ。


「兄さんがユズリハさんの相棒だと認めた覚えはありませんが、兄さんが自分の実力を本当は理解しているというのは同意します。けれど兄さんはのではないでしょうか?」

「その理由は?」

「それはもちろん、兄さんに厄介な地位や仕事を押しつけてくる貴族から身を隠すためが一つ」

「……まあ否定はできんが」

「いくらその気がなくても、女王としてスズハ兄を使わない手はあり得ないしねえ?」


 スズハが二人の感想に軽く頷いて、


「そして二つ目ですが、兄さんが自分がほとんど人類最強であることを自覚すれば、より強くなるための修行をする理由が無くなってしまうこと」

「……それも疑問だったんだが、スズハくんの兄上はなんで今でも厳しい修行を続けてるんだ? ぶっちゃけ、今後一切修行をしなくてもわたしが一生勝てるとは思えないんだが?」

「スズハ兄って、強くなりたいとか修行が好きってタイプじゃないよねえ。言われてみれば確かに疑問だわ」

「そこです」


 スズハが二人を見回して言った。


「──決して口には出しませんが、兄さんはいつか彷徨える白髪吸血鬼に、自分の手で仇討ちしたいと考えているはずです」

「「……へっ……?」」


 ぽかんと口を開けて呆ける二人。


「いやいやいや、そんなことは絶対不可能──だがスズハくんの兄上なら、ひょっとしてワンチャンあり得るの……か?」

「どう考えても人類には絶対不可能なはずなのに、スズハ兄なら可能かもと思わせる段階で凄すぎるよねえ?」

「そこなんです。──兄さんだって常識的に、人間が彷徨える白髪吸血鬼に勝てるはずないと知っているはずです。けれど兄さんが鍛錬を続ける理由はそこにしかない。修行マニアでもない普通の人間ならとっくに諦めているところですが」

「まあそうだな。どこまで鍛え抜いても絶対に勝てない相手だけが目標なら、そもそも鍛錬の意味が無い」

「けれど兄さんの心の奥底の激情はそれを許さない──その矛盾が拗れまくった結果、無意識に自分がそれほど強くないと思い込む形で現れたのではないかと」


 スズハの言葉を聞いたユズリハが感心したように何度も頷いて、


「なるほど。鋭い分析だな、さすがは妹ということか。──てっきりわたしは、スズハくんの兄上のことだし、目立ちたくないから誤魔化してるのかもしくはただの素ボケじゃないのかと思っていたよ。相棒として反省すべきだな」

「その可能性も十分にありますね」

「おいィ!?」

「さっきのは、ただのわたしの仮説ですし」

「ねえ、スズハは妹としてそれでいいの? スズハ兄にもっと活躍して、偉くなってもらいたいとは思わないの?」


 スズハがすまし顔で断言する。


「むしろ好都合です。兄妹二人で慎ましく生きていくためには、大変具合がよかったので──今までは」

「あれ、そう言えばユズリハにスズハ兄を紹介したのはスズハだって聞いたけど?」

「今から思えば一生の不覚でした……あの時はついカッとなって……でも」

「でも?」

「今の兄さんは、迷惑そうにしながらも毎日楽しそうなので、まあこれはこれでアリなのかなと」

「そっか」

「まあ辺境伯にもなったことですし、これから二人で愛の……兄妹の絆を深めるのもいいかなと」

「ちょっと待て!? いったいナニを考えているんだ!?」

「秘密です」


 深夜の王城の一室で、女子会はまだまだ続く……







****************

──次回予告──


 辺境伯となり受け継いだ領地はしかし、戦争の最前線となっていた場所だった!

 敵兵に占領された領地をゼロから取り戻さなければならない!

 しかも元の兵力はとっくに壊滅、新たに軍部の出した兵士はゼロ! 

 スズハとその兄、勝手に付いてきたユズリハの三人で総勢10万人の敵兵を相手にすることになってしまう!


 そんな新辺境伯を領地線上で迎えたのは、領主屋敷の使用人でただ一人の銀髪ツインテール褐色ロリ爆乳美少女メイド!

「新しいご主人様。迎えに来た」

「いやきみ身のこなしがガチの暗殺者だよねえ!?」

「……気のせい」


 スズハの兄は辺境伯からさらに成り上がれるのか!?

 それともヒロイン誰かとの愛の逃避行ルート、もしくは監禁ルートなのか!?

 平民から成り上がった新辺境伯の、明日はどっちだ!?


(内容は超大幅に変更される場合があります)






****************

 というわけでストック分はここまでです。

 今までお読みいただきまして、本当にありがとうございました!!


 本来だとここで終わりの予定だったんですが、事前に考えていたより大変多くの読者様にお読みいただきましたので、調子に乗ってもう少し続けようと思っております。

 ただしストックはありませんので不定期連載になります。

 申し訳ありませんがご了承ください。


 最後に、読者様のブクマや星など、大変励みになっております。

 この場を借りて御礼させてください。本当にありがとう。

 まだいただいてない読者様は、もしよろしければポチッとブクマや星なぞいただきますれば幸いでございます。





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