第49話 聞かなかったことにしろというなら、喜んで承りますが

「おいキミ、ちょっと待ってくれ!?」


 ユズリハさんが慌てたように口を挟んだ。


「キミの話が事実だとしたら、わたしが知らないはずが無いだろう! 我が公爵家は自前の情報網も有しているし、常日頃から情報収集には気を配っている!」

「では聞きますが、ユズリハさんは実際に戦場を見たという人から直接話を聞いていますか?」

「……いいや。直接の報告は遅れているようだ。常日頃なら、前線に混じった兵士が情報を売りに来るのだが……」

「今の話を聞いて、余計に確信しましたよ」


 ぼくはユズリハさんをじっと見つめて、


「考えてみてください。そもそも、ぼくが聞いた二人の王子の性格なら、本当に勝っているならを喧伝するでしょう。そしてお互いの足を引っ張るはず」

「確かに。あの二人の王子の性根は腐っているからな」

「そもそもこの戦争の目的が、自分がいかに次期国王に相応しいかを示すためというのも大きいですしね。けれどそんな話は全く流れてこない」

「うむ……」

「二人の王子が力を合わせて敵軍を粉砕した、なんて聞こえは良いですが、その細かい描写は聞いたことがありません。勝った戦闘ならばこそ、詳細に描写して大きく宣伝すべきなのに」

「言われてみればそうだが……だがあのアホ王子どものことだ、単に勢いで攻勢を掛けたからカッコいいシーンも無かったんじゃないのか?」

「それならそれで、そういう話が聞こえてくるものです。けれど今回は全く聞こえてこない」


 喋り続けて喉が渇いた。お茶が欲しい。


「つまり、そういうシナリオが出来ていたってことですよ」

「……ううむ……」


 そうでなければ説明が付かない。

 ここまで情報統制が上手くいっている理由。

 戦闘の結果が出るずっと前、おそらくは出陣前から入念に準備していたからこそ、公爵家の娘のユズリハさんすら欺けているのだろう。

 ここまで来れば、答えまでもう一歩だ。


「ならば、そんな虚偽の情報を準備をする理由は何でしょうか? どうせ遠くないうちにばれるのに」

「時間が経てば、偽情報など価値はない。だから時間稼ぎに過ぎないが──ああっ、そういうことか!?」

「そうです。なので狙いは恐らく、クーデターかと」


 クーデターで政権を握ってさえしまえば、いくら戦争で大敗しようが、責任を追及する相手は排除できる。

 もちろん敵国が侵略してくれば別だけど、殺戮の戦女神キリング・ゴッデスと渾名されるユズリハさん、それにプラスしてアマゾネスとの同盟がある以上、自国が攻められる可能性は低いと判断したのだろう。

 どこの大貴族が謀略を練ったのか知らないけれど、恐らくは王子が大敗することすら最初から決め打ちして計画したのだろう。とてつもなく性格が悪い。


「だからぼくは、王子のどちらかの陣営がクーデターを起こして、ターゲットは王都にいる現国王と王女だと思ってたのですが……えっと、王女もクーデターを起こすんですか?」

「うっ」

「聞かなかったことにしろというなら、喜んで承りますが」

「──いや。この際だ、聞いてくれ。どうせキミにはいずれ話すつもりだったんだ」


 それからぼくは、王女が次期女王となるためのクーデター計画を、微に入り細に入り聞かされることになったのだった。

 ぼくはただの平民なので、国家規模の陰謀の核心なんて聞かされたところで、何の役にも立たないんだけどな。

 そして。


 ぼくたちが夕食時、その話をした五日後のこと。

 第二王子派によるクーデターが起きて、国王と王女が幽閉された。

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