第48話 クーデター
魚の値段が大幅に上がった。野菜も相変わらず高い。
国を挙げての大戦争は、我が国の軍隊が連戦連勝を続けていると伝えられている。
商人の様子を観察する。ニコニコ顔の商人、顔色の悪い商人、密かに夜逃げの準備をしている商人。彼らの態度は言葉よりよほど雄弁だと思う。
そうして王都の中を観察していたぼくは、やがて一つの結論に至った。
本日の夕食は天ぷら蕎麦。
無言でがっつくスズハと、当然のように横で食事するユズリハさんに向かって、食べながらでいいから聞いてほしいと前置きして言った。
「近い将来、この国でクーデターが起こる可能性が高いと思う」
「ぶぶ────っっ!!??」
ユズリハさんが噴き出して、口の中の蕎麦と蕎麦つゆが盛大に飛び散った。
「はいユズリハさん、この布で拭いてくださいね」
「あ、ありがとう──ってそんなことはどうでもいいっ! ど、どうしてキミはそれを知ってる!? どこから聞いたんだっ!?」
「聞いたってなにをですか?」
「決まってる! サクラギ公爵家主導の、王女派クーデター計画についてだ!」
「……ユズリハさん? 語るに落ちるとはこのことですよ?」
スズハがジト目でユズリハさんを見た。ぼくもその意見に全面賛成である。
けれどユズリハさんは開き直った態度で、
「スズハくんたちには元々、直前で打ち明けて協力してもらうつもりだったからいいんだ。それより今の段階で計画が漏れている方がよほど問題だからな。それでスズハくんの兄上は、どこから計画を聞きつけたんだ?」
「いえ、どこからも聞いてませんが」
「……は?」
狐につままれたような表情のユズリハさんが理解できるように、順を追って説明することにした。
「まず、ぼくの知る限りでは、今回の戦争で我が国の勝ち目はありませんでした」
「キミはなぜそう思った?」
「単純に戦力を出し惜しみしているからです。本気で戦争に勝つつもりなら、少なくともユズリハさんは絶対に出陣させるべきだった」
「けれどわたしが先陣を切っては、またわたしの手柄になるからな。今回の戦争は我々がオーガの大樹海で勝ち取った大金星から、世間の目を背けるためにやっている側面も大きい。だから王族が出て我々が留守番というのは理に敵っているだろう」
「政治面ではそうかもしれませんが、戦術面では最悪です」
「なぜだ?」
「公爵家の書斎を借りて、近年の我が国の戦争を調べたのですが、基本的にユズリハさんがいる戦場でしか勝っていませんでした。逆に王子二人が出陣して勝利した戦闘は皆無です」
「確かにそうだな」
「もっと言えばここ数年の戦場は、ユズリハさんの個人プレイでなんとか保っていたにすぎないですから。もしもユズリハさんが活躍してなければ、この国はとっくに敗戦していたでしょうね」
「そ、そうか? いや、実はわたしもそう思ってはいたのだが、他ならぬキミに言われるとすごく照れくさいな……」
本当に照れくさいらしく、ユズリハさんが顔を赤くして身体をクネクネよじらせる。
けれど本題はそこではない。
「なので今回の戦い、ぼくはとっとと負けて逃げ帰ってくると思ってました。しかし戦闘は連戦連勝、破竹の勢いで進軍中だと伝えられています」
「うん、わたしも実は意外だった」
「なのでぼくは王都の、商人の様子をじっと見ていました。どこ産の、なにを扱う商人の顔色はどうか。個別の値上がり率は。品不足、産地の変更、商品の入荷頻度……それらを入念に観察して組み合わせた結果、ぼくは一つの確信を得るに至りました」
「ほう。それは何だ?」
ぼくは厳かに宣言した。
「我が国の軍隊は、連戦連敗です。間違いありません」
いわゆる大本営発表というやつだ。
我が国のトップは敗北の事実をひた隠し、虚偽の吉報で国民を欺いている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます