第45話 防御石を交換するに値しない女

 買い物を終えてユズリハさんに声を掛ける。


「ん? もう終わったのか?」

「ええ、いいものが見つかったので」

「それなら良かった……だができればキミと一緒にプレゼントを選ぶ、いわゆる買い物プレイをしたかったのだが……」

「ユズリハさん?」

「い、いや! なんでもないぞっ! で、なにを買った?」

「髪留めを二つ」


 買った髪留めを見せると、ユズリハさんがなるほどと頷いて。


「これなら戦場でも身につけられるし、少ないながら防御魔法の付与もあるからな。だが、わたしはスズハくんのツインテール姿など見たことは無いが……?」

「だから違いますってば」


 ぼくは髪留めを一つ、ユズリハさんに渡してこう言った。


「これはユズリハさんへ。いつもお世話になっているお礼です」

「な、なななにっ──!?」

「いつもスズハやぼくを助けてくれて、本当にありがとうございます」

「しょ、しょんなことっ!? わわわたしの方こそキミにはいつも助けて貰ってばかりだ! もう何度も命を助けられて、どうやっても絶対一生返せないほどの恩があるし!」

「なに言ってるんです、戦場で助け合うなんて当然じゃないですか」

「そ、それにキミにとってはこの髪留めだって安くない代物だろう、そんなものをわたしなんかにポンとくれてはダメだ! わたしは先祖代々伝わる防御石を持っているから、これはキミが持つべき──」

「あ、そうか。ユズリハさんならこんなものより強力な防御魔法のかかった逸品を持ってて当然ですもんね。じゃあお礼はまた今度ということで……」

「──と思ったが気が変わった」

「ふぇ?」


 一旦引っ込めたぼくの髪留めを持つ手を、ユズリハさんががしっと引き留めた。


「なあキミ。せっかくだから、わたしたちの御守りを交換しないか?」

「……はい?」

「キミはわたしにその髪留めをプレゼントする、そしてわたしはキミに防御魔法の掛かった防御石をプレゼントする。──戦場で真に実力を認め合った二人が、身につける品を交換するというのはよくある話だ。我々もそうしようじゃないか」


 そしてユズリハさんが胸の谷間から引きずり出したペンダントは、まばゆいほどの輝きを放つ特大のエメラルドだった。


「これがわたしの防御石だ、受け取ってくれ。そしてキミの髪留めをわたしに──!」

「ちょっと待って下さいよ!? その交換、価値が違いすぎますよねえ!?」

「戦場で認め合った二人にとって、品物の価値など些細なことだろう…………べ、べつにわたしは、キミからプレゼントを貰う千載一遇のチャンスを逃すまいとして、我が家に伝わる家宝の防御石を強引に押しつけようとしてるわけじゃ無いから、か、勘違いするな!」

「そんな勘違いするわけないでしょう!?」

「そ、それともキミは……わたしのことを、防御石を交換するに値しない女だと思っているのだろうか……?」

「なに唐突に落ち込んでるんですか!? ああもう、はいこれどうぞ!」

「あ、ありがとう……!」


 ぼくが髪留めを渡すとユズリハさんがキラキラした目で受け取ってくれた。

 喜んでくれたみたいでよかった。

 代わりにバカでかいエメラルドを押しつけられたけど、これは頃合いを見計らってサクラギ公爵家の当主に返しておこうと心に誓った。

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