1-5 侵略戦争ときな臭い日常、そして

第42話 キミは巨乳派だろうか、それとも貧乳派だろうか?

 ぼくが知る限り、国に帰る途中のユズリハさんはたいそう上機嫌だった。

 誤解を恐れずに言えば、何故かは知らないが浮かれまくっていた。

 ぼくに話しかけてくる内容も、まあ景気のいいものばかりで。


「キミもこれで、めでたく貴族の一員だな!」

「いやいやいや。オーガを退治したくらいで貴族になれるはずないでしょう?」

「ふふっ。そう言っていられるのも今のうちだけだぞ?」


 だの、


「キミが一代貴族になるということは、後見は当然我が公爵家ということになるわけだ。これから縁談が山のように来るだろうが、キミの分については絶対に全て断ること。スズハくんの分も基本的には断れ。いいな?」

「ええっと……?」

「キミたちの縁談は我が公爵家が、将来にとって最高の結婚相手を用意すると約束しよう。そ、その……ひょっとしたら、わたしみたいにガサツな女があてがわれるかもしれないが……!」


 だの、


「凱旋パーティーの衣装はどんなのがいいだろうな? やはり我が公爵家が後見していることを強調するため、キミの服とわたしのドレスはデザインを統一した方がいいと思うのだがどうだろう?」

「ちょっと待ってください!? ぼくは平民なのでもうパーティーなんて御免ですよ! それに万が一出ることになっても、衣装はこの前のパーティー用に作っていただいたのがありますし!」

「キミの謙虚さは美徳だが、圧倒的戦果をアピールするためには衣装の新調は必須だろう。……そうだ! わたしとキミが背中合わせで戦い抜いたことを示す、画期的なデザインを思いついたぞ……!」


 だの。

 しまいには、


「──ズバリ聞くが、キミは巨乳派だろうか、それとも貧乳派だろうか?」

「突然なに言ってるんです!?」

「こ、これは大事なことなんだ! わたしが今までの軍隊生活で学んだことだが、男には巨乳派と貧乳派の二通りがあるそうじゃないか。見ての通り、わたしの胸は幼い頃からすくすくと過剰なまでに発育して、今ではわたしの頭より大きい。だからキミが巨乳派ならば、今まで邪魔でしかなかったわたしの乳房も膨らみまくった甲斐があるというものだが、もし貧乳派だというならば……」

「ならば……?」

「キミが貴族になるタイミングで、いっそのこと乳房を根元から斬り落とそうかと思案している……!」

「わ、わーいっ! ぼく巨乳大好き!」


 ──なんていう風に、最後の方は多少のエロトークまで交えるフレンドリーっぷりで、もし今後ぼくが貴族になったらどうするかなんて妄想トークを炸裂させていたのだ。

 ぼくとしても、自分が褒められているのは間違いないし機嫌のいいユズリハさんに水を差すのも気が引けたので、多少引きつりながらも相槌を打ったりしていたけれど。


 ところがである。

 ようやく国に帰ってきた翌日、公爵家で出迎えてくれたユズリハさんは不機嫌の極みにあった。


「ど、どうしたんですかユズリハさん……?」

「どうしたもこうしたもあるか! ──ああすまない、キミのせいじゃないのに八つ当たりしてしまった。わたしは未熟だな」

「いえ、それはいいんですが」

「昨日はあまりに腹が立ったので、つい公爵家の私兵を緊急招集して、深夜まで訓練を付けてしまったよ。はは……」


 ユズリハさんは自虐的にそう言うが、災難なのは緊急招集させられた私兵さんたちだろう。意外にブラックな職場なのだろうか。

 ちなみにユズリハさんの名誉のために付け足すと、ごく稀にあるユズリハさんのストレス発散目的の特訓は意外にも私兵たちに大好評で「普段澄ましたお嬢様の素顔が見れる絶好のチャンス」「全力で動いてくるので乳揺れがダイナミックに観察できる」「お嬢様に踏まれたい」などと言われているのだという。それはともかく。


 ユズリハさんに連れられて公爵家当主の書斎に入ると、ぼくを待っていたらしい公爵が口を開いた。


「──お前が活躍しすぎたおかげだな。我が国は近い将来、戦争を始める」

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