第41話 一族全員皆殺しレベルの超絶裏切り(トーコ視点)
深夜、疲れ切ったトーコがサクラギ公爵家の書斎を訪れると、そこには同じく疲れ切った顔の当主がいた。
「こんばんわー……ってそっちも大概みたいね?」
「まあな」
数日前、衝撃的すぎるニュースが国家を震撼させた。
オーガの大樹海における、極めて精強に組織化された魔物軍の存在。
幻影魔法でカムフラージュされた大樹海の奥で、国をも滅ぼす魔物の大軍団が組織され、人間社会へ侵略する機会を狙っていたこと。
そしてその魔物軍を──たった五人の精鋭が完膚なきまでに粉砕せしめたこと。
「我が公爵家でも探りを入れたが、軍最高幹部は上を下への大騒ぎらしいな。あの阿呆どもは、なんとか魔物軍の殲滅を自分の手柄にしようと画策しているようだ」
「はあっ!? なによそれ!」
「つまり、自分たちは魔物軍の存在を最初から知っていて、あえてユズリハたちを派遣した──というストーリーだな」
「いやいやそれって不可能すぎるでしょ!? もし仮に、オーガの大樹海にあんな激ヤバ魔物軍が組織されてたなんて知ってたのに、国王にも隣国にも黙ってたなんて事になったら、それこそ一族全員皆殺しレベルの超絶裏切りだからね!?」
「全くだな」
「その上それだと、派遣したスズハ兄たちを滅茶苦茶評価しまくっていたってことにもなるでしょ! もちろんそれが結果的には事実だったとしても!」
「その通りだ。しかし連中は、この期に及んでもユズリハやあの男の実力を認める気は無いようだが」
「そりゃまあ、ユズリハは当然としても、スズハもスズハ兄もサクラギ公爵家が唾付けてるもんね! 実力を認めちゃったら、公爵家の権勢が圧倒的になるとでも思ってるんじゃないの?」
「愚かなことだな」
「だよねー。自分たちが認めようが認めまいが、事実は覆せないってのにさ!」
まったく軍の阿呆どもときたら、などとトーコがぷりぷり怒る。
優秀な軍人が前線に出て戦死し、もしくは政治力で敗北して脱落していった結果、現在の軍最高幹部は上へのゴマすりと下への恫喝ばかりが優秀なクズ幹部揃いになってしまった。
それでもユズリハを筆頭とする最前線部隊が優秀すぎるため戦場では勝利に勝利を重ねて、それがまた司令部の腐敗を増長させるという悪循環。
ユズリハ曰く、わざと負けてやろうかと思ったことも一度や二度ではないらしい。
けれど自分が手を抜けば、それだけ自分の周りにいる兵士が死ぬ人数が増える状況で、どうしても手を抜けなかったのだとも。
「それで、王族の動きはどうだ?」
「こっちも似たようなもんかなー。第一王子も第二王子も、主導権を握る切り札になんとか魔物軍殲滅を、自分の手柄に使えないか躍起になってるよ」
「愚かなことだ。切り札を得たいならあの男を手に入れるのが一番簡単だろうに」
「そんなことすら分からないから、低レベルの争い続けてるんでしょ? まあもしスズハ兄に手を出そうとしたら、ボクも本気でぶっ潰すけどね!」
「当然だな」
「でもあのアホな兄どもも、数日掛けてようやく手柄を横取りするのは不可能だって気付いたみたい」
「強引に手柄を捏造しようとしなかっただけまだマシか」
「いや、最初はしようとしたんだよ。けど隣国から正式な声明が出ちゃったでしょ、アレひっくり返すのはさすがに危険すぎるって観念したみたいだねー」
そう、隣国の対応は素早かった。
事実確認後すぐに声明を出したとしか思えない素早さで、全世界に向けて今回の事件について細部にわたるまで公表したのだ。
それも全面的にこちらの国を立てる形で。
大半のアホ貴族どもはその上辺だけを受け取っているが、頭の回る少数派はたとえそれが事実にしても、どうして自国の功績と軍事力をアピールする絶好の機会を捨てたのかと訝しんでいる。
だがトーコにはその理屈が分かる。
あの国は別に、自分たちをアピールする機会を捨てたつもりなんて毛頭ない。
ただアマゾネス族の頂点に立つ兄様がこちらの国の所属だったので、
トーコがほうと息を吐いて、
「まあなんにせよ、ユズリハやスズハ兄たちが無事で本当に良かったよ。今回の件はスズハ兄を一代貴族にする功績としても十分すぎるし、最初に聞いたときはビックリして死ぬかと思ったけど結果的には良かった──」
「それはどうかな?」
「……なんでさ? さすがに今回の件ではアホ貴族どももウチのバカ兄も、スズハ兄の功績を無視できないでしょ。ていうかもしそんなことしたら、怒り狂ったユズリハに生身のまま八つ裂きにされるか、そいつの領土にアマゾネスが攻めてきて全滅するか──」
「我が家の諜報部によれば、軍の一部は今回の一件について別の利用方法を考えたようだ」
「え……?」
「有耶無耶のまま今回の功績を自分の手柄にするにはどうすればいいか? 答えは、もっと大きな功績の一部だと誤認させればいい。卑劣だが有効なやり口だな。残念なことに、奴らはそれに必要な口実を、今回の魔物軍殲滅によって手に入れてしまった」
「ちょ、ちょっと待って冗談でしょ!? それって一体何をやろうとしてるのよ!?」
公爵家当主が、冗談など一ミリも入っていない顔で返事をした。
「侵略戦争だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます