第34話 ボディタッチはアマゾネスの流儀らしいので

 ぼくがアマゾネスさんたちに邪険にされる疑惑は、完全に杞憂に終わった。


 最初こそ多少つっけんどんだったけど、挨拶代わりの模擬試合をやってしまえばすぐに打ち解けて、まるで身内のような親身さで接してくれる。

 アマゾネス族ってみんな凄く美人でスタイル抜群なのに、しかも滅茶苦茶フレンドリーで笑顔振りまきまくり、ボディタッチなんかも気にせず距離がすごく近い。

 世間の噂など当てにならないと、改めて思った今日このごろである。


「……何を考えてるのかは知りませんけど、いま兄さんの考えてることは、絶対に全部まるっと間違ってますからね?」

「どうしたのさスズハ、藪から棒に」

「いいんです、兄さんの勘違いは今に始まったことではありませんから。ですが──」

「なにさ?」

「──どうしてアマゾネスの二人が、兄さんの横に座ってるんですか!? そこはわたしの席のはずですっ!」


 だんっ、とスズハがテーブルを叩くと乗っている食べ物が宙に浮いた。


「こら、スズハ? 食事中に行儀が悪いのは感心しないよ?」

「す、すみません兄さんっ。つい……!」


 しょぼんと反省したスズハの横に座るユズリハさんが苦笑して、


「スズハくんの兄上、こうしてスズハくんも反省しているようだからここはわたしに免じて許してやってくれ。な?」

「ま、まあ、ユズリハさんがそう言うならば」

「……しかしわたしも、スズハくんの言う通りアマゾネスの二人はちょっと近寄りすぎではないかと思うのだが?」

「だって仕方ないでしょう。ボディタッチはアマゾネスの流儀らしいので」


 そう、ぼくは今アマゾネスの総大将の双子に、左右に挟まれて食事をしている。

 これはこちらの国と隣国のアマゾネス軍が、これから共同戦線を張るにあたって、ささやかなレセプションの一環だという。

 なのでぼくの席は、スズハやユズリハさんと同じテーブルの向こう側にあるのが普通なのだけれど。

 ぼくが答えると、左右のアマゾネスが、同時にうんうんと深く頷いて。


「そう、兄様ターレンの言う通り。これはアマゾネス一族最高のもてなしの形。邪魔をするなど許されない」

「我々が兄様ターレンを全力でおもてなしするのを邪魔するならば、我がアマゾネス軍団はたとえ最後の一兵となっても戦い抜くであろう」


 アマゾネス族のぼくに対する呼び方は、なぜか兄様に固定されてしまった。

 なんかアマゾネス族では特別な意味があるみたいで、ユズリハさんがいくら難色を示しても「この呼び方以外受け入れられない」とか言って拒否していた。

 べつにぼくは、どう呼ばれても構わない。

 それにきっと『アマゾネスが認めし男』みたいなカッコいい意味があるのだろう。

 あるのかもしれない。

 あるんだといいなあ。


「……まあいいです。でも兄さん、食事が終わったらわたしたちとの訓練の日課がありますからね?」


 なぜかご機嫌斜めのスズハがそう言うと、アマゾネスの二人が反応して。


「それは僥倖。ぜひわたしたちも参加させてもらおう」

「もちろんその後の、すぺしゃるなとやらもだぞ?」

「なっ!? なんで二人がスズハくんの兄上のマッサージを知っているんだ!?」


 もの凄く慌てたスズハとユズリハさんに、アマゾネス二人がふふんと笑い。


「我らアマゾネスの情報網にかかれば、それくらい知っていて当然」

兄様ターレンはその戦闘技術もさることながら、真に恐ろしいのはそのだということは承知済」

「我々は同盟軍、まさか隠したりはするまいな?」

「くっ……」


 ユズリハさんが、なぜか完全敗北したみたいに膝を付いた。

 どうしたんだろう。

 これから後、いつも通りに訓練した後マッサージをするだけだと思うんだけど。

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