第33話 たった一人の男に、超戦闘民族アマゾネス族の頂点が二人まとめて子供扱いされている、ただそれだけの事実(ユズリハ視点)
衝撃的な戦いが繰り広げられていた。
アマゾネス軍団の総大将二人が、たった一人の男にいいようにあしらわれている。
実力の差は明らかだった。
「……兄さんって、本当はどこまで強いのか、たまに妹のわたしでも分からなくなるんですよね……」
「ああ、そうだな」
「……兄さんに言わせると、わたしたち同様に兄さんも成長してるって話なんですが、元々のレベル差がありすぎて雲の上なのに、更に強くなってるとか理解不能レベルですし……」
「わかりみが深い。とてもな」
スズハの独り言を、ユズリハが全面的に肯定する。
ユズリハは思う。
いったいあの男は、自分がやっていることをどれだけ理解しているのだろうかと。
そもそもアマゾネスといえば大陸に名を轟かせる戦闘民族で、生まれた子供は例外なく幼児の頃からとんでもなく厳しい訓練を続けている。
その実力は、一般兵でも兵士百人に相当すると言われるほどだ。
そしてアマゾネスの社会は、強い方が社会的地位も高い。
つまり総軍団長である二人は、間違いなくそのまま、アマゾネス戦闘力トップの二人である。
あの双子はユズリハの記憶では、共同で族長も兼任しているはずだ。
その二人を赤子のように捻る。
そんなこと、たとえ片方だけが相手でもユズリハには絶対できない。
少し前までより飛躍的に実力が向上した今では、あの二人を相手に勝てないとまでは言わないが、それでも少し油断すれば待っているのは敗北と死だ。
「あっ……! 兄さん、今の剣撃を指一本で止めました……!」
「……目の前で見ても信じられないな……」
きっとスズハくんの兄上は、ただの模擬試合だと思っているのだろうとユズリハは思う。
けれど他の全員はそうではない。
そこにあるのはたった一人の男に、超戦闘民族アマゾネス族の頂点が二人まとめて子供扱いされている、ただそれだけの事実。
ユズリハには今のアマゾネス二人の気持ちが痛いほど分かる。
──スズハくんの兄上に勝てないのは仕方ない。
実力が絶望的に違いすぎる。
それくらいのことはとっくに理解している。
けれどせめて一太刀浴びせなければ、総軍団長として、族長として面目が立たないのだ。
アマゾネス総軍団長の二人の顔はとっくに、くしゃくしゃに歪んでいる。
目元から止めどなく溢れる液体を、流れる汗だと勘違いしているのは、この場においてたった一人しかいないのだから──
「あっ……! 今度は兄さん、相手の剣の上に立った……!?」
「……あの軍団長二人でも、今日剣を握ったばかりの新兵相手にすらあんな真似はできないだろうな。つまりは、それ以上の実力差ということか……」
「……ちなみにユズリハさんは、あの二人相手に、一人で戦えますか?」
「無謀だな。一方が相手ならともかく、あの二人の真骨頂は双子であるがゆえのコンビネーションだぞ? それを二人纏めて相手など死にに行くようなものだ」
「ですよね……でもそうすると、兄さんって一体……」
言葉では呆れながらも、スズハの目線は熱い。
そういえば、とユズリハは気付く。
だんだんと周囲の空気が変わり始めている。
なんかこう、見ているアマゾネスたちの目が、ハートマークになっているような……?
「ユズリハさん、念のため聞いておきますが」
「なんだいスズハくん?」
「……ひょっとしてアマゾネスって、自分より強い男を見つけたら惚れちゃうとか、そういうことは無いですよね……?」
「いや、そんなことは聞いたこともない。ないんだが……」
ユズリハの額に、冷たい汗が一筋流れる。
そもそもアマゾネスが男に冷酷なのは、軟弱な男を対等な異性として認めないからだと言われている。
ではもし仮に、自分たちの中で最も強い族長すら手玉に取るほど強い、そんな男が現れたらどうなるのか?
ひょっとしてそれはアマゾネスにとって、初めて認められる異性なのではないか。
孤高と言えば聞こえはいいが、実態は男ひでりの女軍団。
そこに突如として現れた、唯一無二の男子様として見られても全然おかしくないのかも──?
「……は、はは……まさかな……!」
ユズリハは引きつった笑いを浮かべるのが精一杯だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます