第31話 だが困ったことに、アマゾネスは男嫌いだ
オーガの大樹海への道中は、端的に言ってものすごく快適だった。
理由はもちろんユズリハさん。
公爵家という国内最高の権力ステータスと、それに相応しい金銭をバンバン使いまくる恩恵のおこぼれを、ぼくとスズハも受けまくったのだった。
軍の命令で国境沿いに向かうなどとは到底思えない、まさに大貴族の旅行である。
「──オーガの大樹海に到着したら、とくにスズハくんの兄上には注意してほしい」
とある宿屋の夕食後。
ユズリハさんが真剣な口調でぼくに語りかけてきた。
「オーガの大樹海の防衛拠点は、隣国と共同の砦だ。そこから我々の国へ進むオーガが我々の担当、向こうへ進むオーガが隣国の担当というわけだな」
「はい」
「その隣国なんだが……これは機密情報だが、数年前にクーデターが起こっているんだ。表向きには穏当な政権交代という形にはなっているが」
「そうなんですか」
「それで、現在隣国の実権を握っているのが──アマゾネス族なんだ」
思わず目をぱちくりさせた。なんだって?
「……あまぞねす? おとぎ話じゃなくて?」
「ああ。冗談じゃないぞ、本物のアマゾネス軍団だ。今までずっと奥地の領土に引っ込んでいたはずだったんだが、数年前に族長が交代すると、あっという間に軍事力で隣国全体を掌握した」
「滅茶苦茶やり手の族長さんですね」
「まあ政治的手腕もそれなり以上だし、なにより軍事の天才であるのは間違いないだろうな」
そこでユズリハさんが溜息を漏らして、
「問題はここからだ。……我が家の情報網によると、どうやら今年のオーガの大樹海に出てきたのは、そのアマゾネス軍団なんだよ」
それの何が問題なのだろうかと思う。
「いいじゃないですか。アマゾネス軍団は戦力として優秀なんでしょう?」
「戦力としてはな。だが困ったことに、アマゾネスは男嫌いだ」
「ああ。聞いたことがあります」
「あの脳味噌まで筋肉で出来たアマゾネスどもは、男なんてものは種付けに必要なだけの軟弱なやつばかりで、女と比べて戦士たる素質など欠片も持ち合わせていないと本気で信じているんだとさ。だから男に対する態度が極めて悪い、というか同じ人間だとすら思っていない」
「なるほど……」
「しかも今回、我々は軍部のアホどものせいでたった三人しかいないという弱みがあるからな。そのうえ唯一の男であるキミに対する風当たりは、そりゃもうもの凄いことになるだろう」
すると、それまで横で黙って聞いていたスズハが、静かに口を開いた。
「つまり兄さんを侮辱したクソビッチを、全員叩き潰せばよいということですね?」
「ちょっとスズハ!?」
「それは構わないが絶対バレないようにやれ。さすがにバレたら外交問題だ」
「ユズリハさんまでなに言ってるんですか!?」
「まあそれは現地でじっくり相談するとしてもだ」
「冗談だって言ってくださいよ!」
ユズリハさんがぼくに向かって、すまなそうに頭を下げた。
「スズハくんの兄上には不快な思いをさせてしまうことと思う。大変申し訳ない」
「そんなこと。頭を上げてください」
「──とはいえ、アマゾネスたちが人権すら認めてないのはあくまで普通の男の話だからな。キミがどれくらい強い男なのかが知れ渡れば、奴らは手のひらを返してくるに決まってるからそれまでの辛抱だろう」
「あ、ぼく程度の強さで良いんですか?」
「……いろいろ言いたいことは山積みだが、キミくらい強ければなんの問題もない」
ならばちょっぴり安心だ。
自己流で鍛えてる程度の素人であるぼくでも認められるというならば、噂に聞くアマゾネスの男嫌いというやつも、それほどではないのかもしれない。
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