第28話 あれ全部、山賊に見せかけた敵国の精鋭部隊

 急いで公爵を探し、トーコさんと談笑しているのを見つけて話に割り込んだ。


「……暗殺者?」

「はい。かなり危険でした」


 状況を話すと、公爵がふむと顎をしゃくる。


「今はもう安全なのか? ──まあ、お前がユズリハの元を離れている以上は安全なのだろうが」

「暗殺者の気配は消えました。そもそも暗殺者は一流になればなるほど、失敗した時点で姿を消すものですから」

「なぜだ?」

「一流の暗殺者は使い捨てではないですし、次の機会に殺せばいいと知っているからです」

「ふむ……トーコ殿はどう見る?」

「いつもどおりトーコって呼び捨てでいいよ。そうだね、どっかの敵国がガチでユズリハを狙ってるのは間違いないし、その線じゃない?」


 どういうことだろうか。

 ぼくが分からない顔をしていると、トーコさんが説明してくれた。


「この際だからスズハ兄にも話すけど──この前、王立最強騎士女学園の遠征に、ユズリハと一緒に付いてきてもらったでしょ?」

「はい」

「その時、やたら山賊が多いと思わなかった?」

「そりゃもう思いました」

「あれ全部、山賊に見せかけた敵国の精鋭部隊」

「はぁ?」


 思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。


「いやいや冗談でしょう? あいつら全員、素人のぼくですら捕縛できるほどのザコでしたから」

「……その部分をスズハ兄と議論すると、果てしなく面倒くさいからツッコまないよ? 問題はそこじゃなくて、ユズリハを狙う敵国と、それに繋がる裏切り者が複数ルートあるってこと」

「…………」

「あの遠征の時ね、わざと不完全な情報を複数、スパイ疑惑のある連中に個別に流したんだよ。それぞれ待ち伏せに最適そうなルートを一つだけ用意して、どこで襲われたら誰が裏切り者なのかはっきり分かるようにしてね」

「それで結果は……?」

「見事に全ヒット。こっちが用意していたポイント全部で、きっちり待ち伏せられてたねー」

「ええ……」

「もちろん偶然じゃないよ? その後ボク自らきっちり拷問して、全員残らず自白させてるからね」


 なにそれ貴族マジ怖い。

 ていうかそこまで狙われるとか、ユズリハさんどんだけ敵から嫌われてるんだ?


「……恥ずかしい話だけどね、今ウチの国の軍トップって、第一王子派と第二王子派で派手にやり合ってるんだよ。そんで戦場のケツは全部ユズリハ一人で拭いてる。なのにユズリハが頑張れば頑張るほど、手柄が取られたってユズリハへの風当たりはますます強くなるんだ。そんな負の連鎖」

「それは端的に言って地獄なのでは……?」

「地獄だよ。しかも敵国にとってみれば、ユズリハさえ消えれば最高幹部どもが内ゲバ起こすのをただ見ていればいい。それで疲弊しきったところを攻めれば、まあどうやっても勝てるからね。なのにアホどもは、ユズリハを殺せば自分の派閥で地位が爆上がりだーって浮かれて、バンバン敵と内通しまくってるわけ」

「こんな国、滅べばいいんじゃないですかね……?」

「その気持ちは痛いほど分かるけど、貴族には国を護持する義務があるんだよ。だからボクたちも頑張ってるわけ。それにユズリハなら、まあ滅多なことじゃ死なないでしょ」


 それはそうかもしれない。

 さっきの暗殺未遂だって、ユズリハさんがぼくとの剣舞に全神経を集中していたからこそ危なかったわけで、普段なら自分で気づけただろうし。

 だってほら、素人のぼくですら気づいたのだから。


「……なにを考えてるかは知らないけど、スズハ兄の考えは絶対に違っているとだけ言っておくからね」

「なにそれひどい!?」

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