第26話 胸元を晒しすぎなように感じる

 屋外パーティー当日。

 公爵邸の一室で着替えを終えたぼくは、スズハたちの姿を見て思わず言葉を失った。


「えへへ……どうでしょうか、兄さん?」


 照れつつも、期待を込めた上目遣いで眺めてくるスズハに返す言葉が見つからない。

 お揃いのドレスを新調したと言っていた通り、三人とも同じ格好だった。

 それ自体はいいのだけれど──!


「スズハくんの兄上の感想を聞きたいな? わたしとしては少々、胸元を晒しすぎなように感じるのだが……」


 そうそれ!

 まさにそれが問題だと声を大にして言いたい。

 ドレスそのものは白をベースに淡い差し色が使われ、ドレープもとても綺麗でそこに文句は無いのだけれど。

 なにしろ肩と鎖骨が丸出し、トップレスのドレスは胸元まで深く切れ込みが入り、スズハたちの抜群すぎるスタイルがとんでもなく強調されていた。


「スズハ兄も見とれちゃったかな? 依頼したデザイナーが言うには、このドレスのデザインは完全にボクたち専用だって言ってたよ? なにしろボクたちくらい抜群に飛び抜けた美少女で、なおかつバストが大きくないとデザインに負けちゃうんだって。それでさあ……どう?」


 三人の期待の籠もった目線に、ぼくはなんとか返事を返した。


「……い、いやその、なんというか……ちょっとエッチすぎないかな……?」


 もちろん言外に「そのドレスはいかがなものか」という意味を込めたつもりだったのだけれど。

 なぜかぼくの言葉を聞いて、すごく喜ぶ三人娘なのだった。


「や、やりましたっ……わたし生まれて初めて、兄さんに『エッチだ』って言われました!!」

「そ、そうかっ……! キミに性的な目で見られるというのはその、とても恥ずかしくはあるのだが……しかしわたしもキミの相棒として、そういう事もやむを得ず、やむを得ずだが受け入れる覚悟はあるっ……!」

「い、意外にガチ照れしちゃったかも……スズハ兄をちょっとからかうだけのつもりだったのに、おかしいな……あははは……」


 もうわけが分からないよ。

 ぼくはスズハたちの後ろに付いていたメイドさんに近づいて、まともな第三者の意見をこっそり聞くことにした。

 おそらく三人の着付けを担当したのだろう。

 怜悧な美貌で静かに控える、いかにも仕事のできそうなメイドさんだ。


「あの、ちょっとお聞きしたいんですが……こんなドレスで大丈夫なんですか?」

「もちろんでございます」

「そ、そうなんですか……さすが貴族の屋外パーティー……」

「はい。ユズリハ様たちの艶姿を目にした殿方は一人残らず、精液をスプリンクラー(貴族邸の庭などにごく稀にある、もの凄く高価な魔道具)のごとく撒き散らすこと確定でございましょう」

「それってダメですよねえ!?」

「ですがそれも当然のこと。本日のお嬢様方の装いは、どんなに控えめに見てもクイーンサキュバスを遙かに上回るエロさでございますから。参加者の殿方がガチ恋することは確定、求婚や愛人のお誘いが殺到すること間違いなしでございます」

「マジですか……」


 目の前がくらくらしたぼくが、こめかみを押さえていると。

 メイドさんが続けて、こんなことを言ってきた。


「……止めるなら今ですよ」

「えっ?」

「ユズリハ様たちをお止めするのは簡単です。あなた様が、耳元に近づいてこう囁けばよろしいのです──『ぼく以外の男に、キミの素敵なおっぱいをジロジロ見られたくないんだ』と」

「ええっと……? でもそれ、スズハはまだともかく、ユズリハさんとトーコさんにぼくが口出す権利なんてないような……?」

「権利云々の問題ではありません」

「そうかなあ?」

「──ただあなた様は、ご自身のお気持ちを述べられるのみ。その後どう判断するかはお嬢様方の判断なので、問題ナッシンでございます」

「それは確かにそうかも……? でも本当に、そんなのでどうにかなるとは思えないんですが……?」

「もとより失敗しても損はございません。騙されたと思って試していただければと存じます」


 その後、メイドさんの言うとおりにしてみたら、本当になんとかなった。

 三人ともなぜか顔を真っ赤にして、「ぼくがそう言うなら仕方ない」みたいな感じで素直に引き下がったのだ。

 結局三人とも、肩から胸を隠すケープを掛けることで落ち着いた。


 さすが公爵家のメイドさんは優秀だと、ぼくは大いに感心したのだった。

 だったら最初から止めてくれ、という話はさておいて。

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