第25話 初めての共同作業と言えるでしょう

「なにを焦っておるのだ。ただ事実を披露するだけだろう」

「いやいやいや、物事には言い方というものが……!」


 多分目の前の当主サマは、なにが問題なのかさっぱり理解しちゃいない。

 目立って、発言力を付けて、利権を我田引水する貴族としては当然なのだろう。


「ええと、ええと……そうだ! 今回の討伐は、ぼく一人の成果ではありません!」

「なに? だが娘とトーコ殿の話では悪魔との戦闘中、他の三人はお前の邪魔にならぬよう下がっていたと聞いておるが?」

「それは事実です。ですがそこに腕があること、これはユズリハさんの手柄と言っても過言ではないでしょう」

「過言だと思うが……?」

「そんなことありません。あの時ユズリハさんは、身を挺して仲間を──ぼくを庇ってくれました。その命がけの勇気が悪魔の意表を突いたからこそ、なんとか撃退することが出来たのです──そうですよねユズリハさん!」

「ふえっ!?」


 いきなり話を振られて固まるユズリハさん。

 忘れがちだが今は公爵家での夕食の最中で、公爵の横には娘であるユズリハさんが座っている。

 必死でアイコンタクトすると、ユズリハさんはボクの意図に気付いてくれたようだ。


(な、なあスズハくんの兄上……それって本当か? 本当に本当なのか?)

(もちろんですよ! だから胸張って主張して下さい! 今すぐ!)

(わ、分かった! キミがそこまで言うのならば……!)


 ユズリハさんがコホンと咳払いすると、居住まいを正して公爵に向き直り、堂々と宣言した。


「スズハくんの兄上の言う通りです」

「どこがどう言う通りなのだ?」

「あれはによる──と言えるでしょう」


 ****


 その後なんだかんだあって、彷徨える白髪吸血鬼を打ち払った手柄は『サクラギ公爵家ユズリハ令嬢とその仲間たち』のものということになった。大変めでたい。

 ただしその代わり、屋外パーティーでユズリハさんのエスコート役をすることからは逃げられなかった。


「現在ユズリハには婚約者もいないし、悪魔を打ち払った仲間で男はお前だけだ。ならばお前がエスコートをするのが当然である」

「ですがそういう場合は、ユズリハさんの親族がエスコートするのでは……?」

「普通ならばな。しかし今回は凱旋パーティーだから、仲間が前に出る方が自然だろう」


 そう断言されてしまえば、ぼくが断れるはずもない。


「あ、でも考えたらぼくはパーティーに着る衣装が無いので辞退……」

「そんなものとっくに用意しておるわ。公爵家の品格を損なわないよう、王都で一番人気の上級貴族専属デザイナーに仕立てさせた一式を用意してある」

「ぎゃふん」


 ぐうの音も出ないとはこのことだった。

 そして最後に追い打ちでスズハが、

 

「あ、あのっ、兄さん」

「なんだいスズハ? 残念だけど、屋外パーティーに出るのは決定事項みたいだよ……」

「わたし、兄さんとお揃いのドレスでパーティーに出られるなんて、夢みたいです!」

「……お揃いのドレス? なにそれ?」

「あのあのっ、兄さんにはギリギリまで内緒にして驚かせようってみんなで話してまして! ユズリハさんにお揃いのドレスを新調していただいたんです! わたしだけでなく、ユズリハさんにトーコさんも!」

「あ、そうなんだ……」

「だから当日はユズリハさんだけでなく、わたしもエスコートしてくださいね!」


 ……どうやら外堀はとっくに埋まっていたようだ。

 貴族だの政治家だのって類いは関わるとロクなことがない、というのがぼくの人生の信条なのだけどなあ。


「まあ、仕方ないか」


 まさか失敗したら殺されるわけでもあるまい。

 ぼくは三日後のパーティーに向けて、覚悟を決めたのだった。

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