3章 凱旋パーティー
第24話 1300年前まで遡らなければ存在しないのだぞ?
王立最強騎士女学園の中間考査の旅から帰って一ヶ月が経ち。
スズハとぼくはこのところずっと、公爵家に入り浸っていた。
「わたしの家にある蘇生魔法陣を使って訓練し、スズハくんの兄上が訓練前後にマッサージするのが一番効率的だろう?」
そんなユズリハさんの言葉に引き摺られるように、スズハは放課後ユズリハさんと一緒に公爵邸へ直行し、それに合わせてぼくにも迎えの馬車が来る。
そして二人は夕方まで、密度の濃ゆいトレーニングをこなす。ぼくはそのお手伝いだ。
トレーニングが終わったら公爵邸のお風呂を借りて、マッサージの後は毎回夕食まで用意してくれる。まさに至れり尽くせり。
しかもさすが公爵邸、出てくる食べ物が全部高級でかつ滅茶苦茶美味しい。
……公爵家当主のアーサーさんも一緒の食卓なんで、緊張するのが玉に瑕だけど。
そんなある日のこと。
夕食を頂いていると、食事中は普段喋らない公爵が珍しく口を開いた。
「三日後、我が公爵家主催の屋外パーティーがある。二人にも出てもらうが都合はいいだろうな?」
「あ、はい。大丈夫です」
どうせその日も、公爵家で訓練の予定が入っている。それをキャンセルするだけだからね。
「公爵様には大変お世話になってますし、なんでも手伝いますよ。荷物運びでも警備でも下働きでも」
「お前はいったい何を言って……いや、そのなんでも手伝うという言葉、間違いないだろうな?」
「もちろんです!」
きっぱりと断言する。
その時なぜか、公爵の目がきらんと光った気がした。
「そうか。ではお前には今度のパーティー、ユズリハのエスコート役を命じる」
『えっええええええッッッッッッ!?』
ぼくとスズハは、思わず声を張り上げてしまったのだった。
****
よくよく聞くと、なんでも屋外パーティーは公爵家主催にして、ユズリハさんの凱旋パーティーなんだとか。
なんの凱旋かというと、もちろん彷徨える白髪吸血鬼からの凱旋である。
かの国潰しの悪魔と渾名される強敵と戦って、一人も欠けることなく生き延びたことは圧倒的凱旋である──そんな公爵の言葉は、十分納得できるものだ。
「ですが、そんなのは作り話だと思われるかも」
「なにを言ってるのだ。お前が切り取った、悪魔の腕があるだろう?」
「ああ。あんなもの、まだ取ってあるんですか」
それはユズリハさんの胴体を貫いた右腕を、ぼくが悪魔の肩口から斬り裂いたもの。
あの悪魔のことだ、右腕はとっくに再生しているだろう。
その意味ではトカゲの尻尾を拾ってきたようなものだ。
「……お前がどう思っているかは知らんが、お前以前にあの悪魔──彷徨える白髪吸血鬼の身体の一部でも斬り落とした記録は、1300年前まで遡らなければ存在しないのだぞ?」
「え、そうなんですか?」
「その時に斬り取られたのは僅か指一本、そしてそれを成し遂げた男は後に大陸を統一する覇王となっておる」
「そりゃすごいですね」
「あのな、お前という奴は……まあいい。というわけで、我が娘の命を救い、かの悪魔の腕を切り落とした若き英雄の誕生として、お前は大々的に紹介されることになる。覚悟しておけ」
なにとんでもないことをサラッと言ってるんだこの公爵家当主は。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!?」
そんなことをされたら大変困る。
なにしろぼくは、偶然にも公爵家の令嬢と面識があるだけの平民で。
そんなヘンな風に紹介されたら、貴族たちから注目されるだけならまだしも、いらんやっかみや面倒を抱えることは必然である。
ぼくに力があると勘違いして、取り込もうとするアホ貴族すらいるかもしれない。
そんな面倒は御免である。
だってぼくは、慎ましい庶民なのだから。
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