第11話 人体をビリビリに破り捨てる系公爵令嬢

 とある休みの日、ぼくとスズハはユズリハさんに呼び出された。


 公爵家の仕立てた上等の馬車に乗ってやって来たのは、なんとサクラギ公爵邸。

 驚くぼくの横で、スズハはすまし顔だったのでどこに行くか知っていたのだろう。

 だったら教えて欲しかった。心臓に悪い。


「やあ二人とも、いらっしゃい」


 これは何事かと訊く暇もなしに、ぼくたちは広大な敷地の奥へと案内される。


「スズハくんとその兄上、来てくれてありがとう。──今日はスズハくんと二人で、スズハくんの兄上に一日がかりで指導を願いたいと思ってね?」

「指導、ですか……?」

「そうだ。キミがいつもスズハくんにしている、トレーニングや戦闘訓練のことさ。もちろん柔軟体操やマッサージもね」

「はあ」


 大貴族の考えることはよく分からん。

 ぼくがスズハをトレーニングしたり、訓練の相手をしたり、柔軟体操を指導したりマッサージしたりしているのは、ぶっちゃけ金のない庶民だからだ。

 もしもぼくたちがユズリハさんのようなとまではいかなくても、貴族だったり平民でも金があるような環境だったら、絶対に専門の人間を雇っていただろう。

 一体どういうつもりなのか。


「スズハくんの兄上は難しい顔をしているな。だが難しく考えなくてもいい、今日はそんな遊びに付き合ってほしいというだけさ。もちろん一日分の指導料はキチンと支払う」

「いえ、素人のなんちゃって指導にお金なんて要求しませんけど」

「そう言わずに受け取ってくれ。では時間が惜しい、さっそく始めようじゃないか」


 ****


 ユズリハさんに連れられて来たのは、邸宅の離れに建つ訓練場だった。

 室内に入ると、中心には直径三十メートルほどの魔法陣が光り輝いていた。

 魔法に詳しくないぼくが見ても分かる、極めて精緻な魔法陣だ。

 作るのに莫大な金が掛かったのは間違いない。


「さて、この魔法陣は試合場でもある。つまり魔法陣の中で戦うわけだな」

「この魔法陣は、いったいどんな効果があるんですか?」

「それは口で説明するより、キミの目で見て貰った方が早いだろう──用意してくれ!」


 ユズリハさんがパンパンと手を叩くと、公爵家の私兵だろう数人が、一人の男を魔法陣の中に連れてきた。手はずは整っていたようだ。

 連れられた男は口を塞がれ、両手両足を縛られ身動きが取れない状態だった。


「この男は、我が公爵家に侵入しようとして捉えられたスパイだ。しかし尋問してもなかなか吐かなくてね」


 言われたとおり、縛られた男の瞳には強い光が宿っていた。

 絶対に、死んでも依頼人のことを吐かないという、強固な意志が窺える。


「ではよく見ていてくれ」


 そう言って魔法陣の方へと、ユズリハさんが悠々と歩いて行く。

 魔法陣の中央に放置された男が睨み付けるが、ユズリハさんが気に掛ける様子はない。


 そうして歩み寄りったユズリハさんが男の正面に立つ。

 そのまま男の腰を左右から摑んで、高々と両手で持ち上げると、


「それ」


 気の抜けた言葉とともに、男の身体を左右真っ二つに破いてしまった。

 股間から頭のてっぺんまで、まるで紙をビリビリに引き裂いたように人体が引きちぎられる。血がもの凄い勢いで流れ出す。臓物がはみ出て床に落ちる。

 確認するまでもなく即死だった。

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