第12話 蘇生魔法陣
「さてここからだ、よく見ていてくれよ──」
そう言ったユズリハさんが、男のそばを離れると。
床の魔法陣が強い光を放ち、洪水のように男の屍体に叩きつけられ。
やがて魔力の洪水が引くと、そこには元通りに生き返った男がいた。
「どうだい? いま二人に見てもらった通りだ。この魔法陣には、魔法陣の中で死んだ生物を再生する力がある。つまり──」
「つまり?」
「たとえ戦闘訓練で何度死んでも生き返ることが可能だし、情報を吐かないスパイも吐くまで殺しつづければいい。非常に便利なものさ」
死から蘇った男の瞳には、先ほどまでの強い意志はなく、ただ怯えだけがあった。
そんな男をユズリハさんは一顧だにせず、再び歩み寄り蹴り飛ばす。
男は矢のような速度で魔法陣を飛び出し、壁へ一直線に叩きつけられた。
「というわけで、あの男の拷問は後日やるとして、今日はスズハくんの兄上との戦闘訓練だよ」
「この魔法陣を使ってですか?」
「そう、この魔法陣の中で。──結局、訓練での成長がどうしても実戦に劣るのは、死亡可能性の有無だからね」
その理屈は良く分かる。
どれだけ訓練を積み重ねても、一つの実戦にどうしても敵わない部分。
それは実際に生命の危機を体験することで、能力の飛躍的な成長が促されることにある。
爆発的な成長、時には覚醒とまで呼ばれるほどの進化はいつも、深刻な生命の危機によって無理矢理引きずり出されたものだから。
「それは──すごく魅力的ですね」
「だろう?」
なるほど、ユズリハさんが強いはずだ。
生命の危機をわざと与えて爆発的に成長させる、なんて普通は絶対に出来ない。
いくら強くなっても、そんなことを続けていればいつか本当に死ぬからだ。
けれどあの魔法陣があれば、そのデメリットは解消される。
「スズハくんの兄上は分かっているね。──世の中にはいるんだよ、いくら死んでも生き返れるのなら意味が無いだろうと思う輩が」
「ああ、いるでしょうね」
「ならば一度死んでみろと言いたい……人間の持つ生存本能は、それほど甘い物じゃないんだ。いくら頭で『生き返る』と分かっていても、本当に死ぬとなれば脳汁もドバドバ出るし走馬灯もぐるんぐるん廻る。おかげでわたしは、幼少期の記憶がバッチリだ」
「そうですか」
走馬灯が何度となく繰り返されたおかげで、普通なら覚えていないような記憶も鮮明だということだろう。
「さて、ではスズハくんとその兄上。手加減抜きの訓練を始めようか──!」
最初はスズハとユズリハさんの訓練に、ぼくがたまに参加するようなものかと思った。
けれどすぐに訓練は実戦形式の、スズハとユズリハさん対ぼくの構造になる。
スズハとユズリハさんが二人がかりで、ぼくに襲いかかってくるのだ。
スズハは最初それでも躊躇していたけれど、慣れた頃にはぼくの急所をバンバン狙うようになっていた。というか本気で、一ミリの誤差も無く急所そのものしか狙ってこない。
ユズリハさんは言わずもがな。
とはいえユズリハさんの強さは、スズハより一回りか二回り強い程度だったので、ぼく相手ということでかなり手加減してくれているのだろう。なんたってぼくは素人だしね。
「──兄さんっ! どうして、わたしの攻撃が! 当たらないんですかあっ!」
「そりゃ、当たったら死ぬからだけど」
いくら生き返るとは言っても、それでも死にたいはずもなく。
スズハの貫手、回し蹴り、掌底や目潰し、時にはビンタ。
そのどれもがまともに喰らったら死亡確実の、やべー攻撃である。
だからそれらを躱し続け、避けられないときは身体を捻って急所を外して処理していく。
一方のユズリハさんも同様。
ただしこちらは、更に攻撃が鋭くて何度か危ない場面もあった。
けれどなんとか回避できた。
この二人にコンビネーションを使われたら、本当に死んだかもしれないと思う。
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