第8話 王族は平民と結婚できない(^o^)(ユズリハ視点)
公爵の言葉に、ユズリハは信じられないとばかりに噛みついた。
「なっ──!?
「落ち着けユズリハ」
「これが落ち着いていられますかっ! もし対応を誤って、スズハの兄上が他の貴族に──いえ、それならまだマシです! 敵対国になど取られることがあっては、この国は滅亡の危機にすら直面しかねないのですよ!?」
「そんなことは承知しとる。いいからワシの話を聞け、ユズリハ」
静かに諭す公爵家当主の威厳ある態度に、ユズリハはようやく落ち着きを取り戻した。
「し、失礼しました。父上……」
「あの男が傑物なのは認めよう。わが公爵家が絶対に取り込むべき存在だということも。だがそれは、極めて慎重に行わなければならん」
「それはなぜです?」
「お前の存在だ、ユズリハ」
目をパチパチさせるユズリハに、分かっていないなと公爵が嘆息する。
「お前の戦場での多大な功績とそれによる存在感は、現在の我が国において極めて大きい。現王の次は王家からではなく、ユズリハが次期女王になるべきだという貴族も一定数いるほどだ」
「そんな戯れ言を言う輩がいることは知っています。ですが、わたしにそんな気は一切ありませんので」
「ユズリハの意志が問題なのではない。問題は、それが実現可能なほどの知名度、血筋、能力を、お前が持ち合わせていることだ」
ウチが公爵家でなく、男爵家などの下級貴族ならばまだマシだったのだがと公爵が続けて、
「現在、王家と我が公爵家は極めて危うい権力バランスの上で均衡を保っている。そこへ何の考えも無しに、お前と同等──もしくはそれ以上の戦力となりうるあの男を引き入れたらどうなる? ついでにその妹までくっついてきたら?」
「バランスが崩れると……?」
「そうだ。貴族社会は真っ二つに割れ、次期王座を巡って間違いなく内戦になる。お前やあの男の意志など関係なしにな」
「そ、そそそそれはダメですっ!」
王族を除く貴族階級の最上位であるサクラギ公爵家初代当主は国王の弟であり、その後もサクラギ公爵家は王族と連綿と婚姻関係を結び、王家を補佐することを代々の使命として掲げていた。
その教育は、ユズリハにもしっかり受け継がれている。
自分が原因で国が割れると聞いて、顔が青くなるのも当然だった。
「で、ですがそれでは……父上は、スズハくんの兄上を我が公爵家に取り込むことは出来ないと……?」
「そんな顔をするな。俯くな」
「……ですが……!」
「もちろん、あの男は最終的に我が家がいただく」
ユズリハががばっと顔を上げる。
「だがそれには、入念な準備が必要だ。一歩間違えれば内戦になるからな」
「は、はいっ!」
「肝要なのは、我が家があの男を秘匿したと思わせないこと。王族ともある程度交流をさせて、名前も最低限売り出すのがいい」
「ですが、それでは横取りされるのでは……?」
「なんのための権力だ。我々から奪い取ろうとする愚か者など、潰してしまえばいいだろう」
「承知しました。権力を笠に着るのは嫌いですが、この件に関してはそうも言ってられませんね」
そう言って頷いた直後、ユズリハが再び暗い顔をする。
「ですが、あの男の能力なら王家も間違いなく欲しがると思うのですが……? とくに第一王女のトーコは聡明です。黙って指をくわえているとはとても想像できません」
「もちろん王家を潰すわけにはいかん。だが今回に限り、王家には致命的な弱点がある」
「弱点ですか?」
「簡単なことだ」
「それは──」
分からんか、と公爵が顎に手をやった。
「王族は、王族もしくは上級貴族としか婚姻できん。過去にその例外はない」
その点公爵家には、長い歴史の中でわずか数件ながら、平民と婚姻した例がある。
この違いは非常に大きいと公爵は断じた。
なにしろ、最後の最後になれば。
詰みの一手が自分たちには打てて、王家には打てないのだから──
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