第7話 最上級という評価すら生ぬるい(ユズリハ視点)
深夜のサクラギ公爵邸。
当主の書斎で、当主のアーサーと娘のユズリハが真剣な顔で向かい合っていた。
「さて。あの男、ユズリハはどう見る?」
「公爵家に取り込むべきです」
ユズリハはなんの迷いも無く断言した。
「絶対に、間違いなく、早急かつ速やかに、我が公爵家に取り込むべきでしょう。もちろん妹のスズハくんもとんでもない傑物で、一緒に取り込めれば万々歳ですが。まずはスズハくんの兄上を確実に取り込むことこそ肝要かと」
「最上級の評価だな」
「いいえ父上。最上級という評価すら生ぬるい──あの男を取り込めるかどうかで、我が公爵家の行く末は大きく明暗を分けると愚考します」
「どうしてそう思う」
ユズリハは興奮冷めやらぬ口調で、父親に思いの丈をぶつける。
「まず最初に驚いたのは、わたしですら勝利するのに苦労したスズハくんに対し、まるで赤子の手を捻るように圧倒していたことですね」
「……訓練だからではないのか?」
「スズハくんの目を、動きを見れば分かります。どうにかして兄上から一本取りたい、そんな本気が剥き出しになっていました。そのスズハくんが相手にもならないのです」
「ふむ。ならばあの男、どれほど強い?」
「わたしが戦った感触だとスズハくんが現状で、最低でも騎士団トップクラスに強いですね。そのスズハくんを軽く捻るのですから、スズハくんの兄上の強さは最低でも騎士団長以上。ヘタをすれば……この国で一番の強さかと」
ですがそんなことより、とユズリハが続けて、
「それよりも一番の衝撃は、あの『柔軟体操』と『マッサージ』です」
「──ほう?」
「わたしがスズハくんと戦って本気で驚いたのは、身体の動きが凄まじくしなやかで可動域が圧倒的に広く、また筋肉が極限まで捻ったゴムのように爆発的なパワーを秘めていることでした」
「その体質が、あの娘の強さの秘訣か」
「わたしもそう思っていました。ですが──」
「なんだ?」
「……もしもあの超上質な筋肉が、スズハくんの兄上の柔軟体操そしてマッサージによって、人為的に生み出されていたとしたら……?」
「……!」
公爵は絶句した。
不世出の戦女神である自分の娘が大絶賛する、スズハの恐ろしいまでに特上品質の筋肉。
それが、人の手で生み出されている可能性を示されたのだから。
「父上。正直に言って、わたしは今すぐスズハくんの兄上を我が邸に攫って、毎日毎日朝から晩まで訓練を付けて欲しくてたまりません。そして訓練の終わりには、スズハくんの兄上から何時間でも、マッサージで筋肉をほぐしまくってもらいたいのです」
公爵も、あの男の施すマッサージは見ていた。
年頃の妹の腕や肩や脚はもちろん、尻やふとももの奥深くまで念入りに揉みしだき、状態を確かめ、まるで慈しむようにじっくりしっとりマッサージをしていた。
大臀筋の奥深くの芯をマッサージすると言って、スズハの尻肉を割って指を差し込んですらいたのだ。
平民の兄妹がするならまあ構わない。
けれど大貴族の娘が、血縁もない平民に施されるものとしては完全にアウトだ。
たとえ医療行為だと言い張っても、もしバレれば大変な醜聞になるのは間違いない。
そんなことくらいユズリハだって理解しているはずだ。
だから公爵は諭す。
「ユズリハ、分かっているはずだ。そんなことは認められない」
「…………はい」
「そしてもう一つ」
公爵は厳かに宣言した。
「あの男を、今すぐ我が公爵家に取り込むことはできん」
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