第4話 お前はパンチ一発しか撃てない程度の腑抜けなのか(ユズリハ視点)
ユズリハ・サクラギは、世間では
ユズリハの女神のごとき圧倒的な美貌と鬼のような戦闘力は、まさにそう渾名されるにふさわしかった。
ユズリハはサクラギ公爵家直系長姫として10歳で初陣を飾って以来、ありとあらゆる戦場で暴れ回った。
ユズリハが15歳で王立最強騎士女学園に入学したとき、倒した敵兵の数はすでに10万を超えていたほどである。
王立最強騎士女学園の入学試験における戦闘実技考査は、選りすぐりの上級騎士と一対一のタイマン勝負。それが開校以来数百年の伝統なのだ。
そこには、万が一にも試験官が倒されたら大恥だという意図が透けて見えた。
その伝統を、ユズリハは打ち破った。
上級騎士の試験官との一対一の勝負に勝ったのだ。
誰もが驚き、さすがユズリハだと褒め称えた。
ユズリハは当然のように一年目から生徒会長に就任し、学園の定期試験でも連勝街道を
こんなものかと肩透かしを食らいつつ、それでもユズリハは鍛錬を止めなかった。
そしてさらに成長した今では、自分は世界一強いんじゃないかと割と本気で思うようになっていた。
それなのに。
(きっ──効かない!? それどころか!!)
挨拶代わり、本気の全力顔面パンチ。
一般兵どころか騎士ですら頭部が吹き飛び脳漿を撒き散らして即死する、ユズリハの必殺ブロー。
城門をこのパンチ一発でぶっ壊したこともある、それほどの威力。
でもスズハの兄なら余裕で
(まるで躱さないどころか、そのまま顔面で受けきって、ノーダメなんてっ……!?)
勝負という意味では、この一撃ですでに決まっていた。
ユズリハの本能が無意識のうちに、目の前の男子様には絶対にかなわないと白旗を揚げたのだ。
全身がガクガクと震える。
それは自分より遙か高みに位置する圧倒的強者に生まれて初めて出会い、自分が弱者なのだと思い知らされた人間の本能。
ユズリハがおびただしい数の敵兵と、およそ同数の味方に与え続けていた生存本能が鳴らす根源的な恐怖を、ついにユズリハ自身が受け取る番になった。
ただそれだけのこと。
そして同時にユズリハの魂の奥底もまた、キュンキュンとむせび泣く。
それは強いオスと、自分より圧倒的に能力の勝る優秀なオスとつがいになりたいと叫ぶ、メスとしての野生の本能だった。
──しかもその状態で、スズハの兄はユズリハに、更なる追い打ちをかけてきた。
「えっと……もう終わりですか?」
「なっ──!?」
スズハの兄としてはただパンチ一発だけで攻撃を止めたユズリハに、もういいのかと確認を求めただけ。
しかしユズリハは、それを明確な挑発と受け止めた。
お前はパンチ一発しか撃てない程度の腑抜けなのか、そう
もちろん純然たる誤解である。
「そっ、そんなわけ──あるかあッッッッッッ!!」
ユズリハが狂ったように攻撃を繰り出す。
ハイキック、裏拳、フェイント、目潰し、関節技……
その一撃一撃が、ユズリハの今までの人生で最高に決まった、まさに会心の一撃。
極限の精神状態が、ユズリハの眠っていた全力を超えて引き摺り出したかのような、魂の一撃の連続で。
けれど。
それらあらゆる攻撃は、ただの一撃も、スズハの兄には通用しなかった──
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