第3話 初対面の美少女に顔面グーを入れられた日
「本当に申し訳ございませんでしたっっ!」
ぼくは滑り込むように土下座した。
一分の動きのムダもない、まさに川の流れのような土下座だった。
「その後に生意気を申した事は聞いております。本当にウチの愚妹は、礼儀というものを知らず──」
「ああいや、謝らないでくれ。そんなことを咎めに来たんじゃない」
「……違うんですか?」
土下座の態勢からチラッと顔を上げると、座っているユズリハさんのスカートの奥のパンツが見えた。ペパーミントグリーン。
そんなことはどうでもいい。
困り顔のユズリハさんが座るように言ったので、慌てて床に正座する。
「いやそうじゃない……まあいいや。本当に無礼だとか貴族だとか、そういうことは気にしないで欲しい。学校の校則でも禁じられているし、わたし自身そういうのは好きじゃないんだ」
「はい」
「だからこれから先のことは、わたしに気兼ねなく事実を話して欲しい──スズハくんの兄上は、スズハくんより強いと聞いたが本当か?」
「あ、えっと、まあいちおうは。兄ですので」
「あそこまでスズハくんを育て上げたのは、スズハくんの兄上だという話は?」
「それもいちおう合ってます。とは言っても自己流の戦い方を教えたくらいですけど」
「毎日、鍛錬後のスズハくんの身体を念入りに揉みほぐしているというのは?」
「まあ兄にできることなんて、それくらいですから」
「ふむ……」
ユズリハさんが顎に手をやって、何事か考えている。
ぼくの予想が正しければ、これはロクでもない話の流れになるパターンだ。
どうか外れてくれと心の中で願っていると、
「とりあえずスズハくんの兄上、わたしと手合わせしてくれないか? もちろん本気で」
悪い予想は的中した。
なにが悲しくて腕自慢のお貴族様、しかも女子学生と殴り合わなきゃならんのか。
****
ユズリハさんの心遣いで、王都のすぐ外にある広大な森に場所を移した。
なんでもここはサクラギ公爵家の所有地で、ここならどれだけ暴れてもお咎めはないとのことだ。
それ以前に戦わない方向で配慮してくれないかなと内心思う。
「スズハくんの兄上に一つだけお願いがある。それは絶対に手加減をしてくれるな、ということだ。もちろんわたしも本気でお相手しよう」
「あーい……」
「どうにもやる気がないな──分かった、キミが善戦したとわたしが判断したら、公爵家から褒美を取らせよう。少しはやる気が出るだろう?」
「さあ始めましょうすぐ始めましょうかかってきてください!」
「現金すぎる……」
平民を舐めないでいただきたいですわね。
いくらお貴族様のご命令で気が進まなくても、そこに褒賞があれば本気で殴りに行ける。それで晩ごはんのおかずが増えるなら万々歳だ。
「まあいい。キミの気が変わらないうちに始めるとしようか──なっ!!」
ユズリハさんが跳んだ。
凄まじいスピードで近づいてくる。スズハよりも明らかに速い。
そのことが意外だった。なぜならば。
「はえー。よう揺れとる……」
ユズリハさんは女騎士として理想的な、やや長身で鍛え抜かれた身体の持ち主だ。
ぼくみたいな素人でも分かる。
しかしその胸元だけは、大玉スイカ顔負けに発育した二つの乳房がぶら下がっていた。
うちの妹のスズハも滅茶苦茶大きいんだけど、それに匹敵するくらい大きい。
だから動きは緩慢だと思っていたのだ。
けれど今ユズリハさんは、胸元の重しなど関係ないとばかりの速度で突進してきていた。
抑えつけられているはずの乳肉が、引きちぎれんばかりに暴れまくっている。
「……あ」
そんなアホなことを考えていたら、目の前にユズリハさんの姿があった。
最初から手加減など考えていなかったに違いない。
固めた拳を振り抜く、全力のストレート。
ユズリハさんの必殺の一撃が、ぼくの顔面にめり込んだ。
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