第2話 女騎士学園の生徒会長
その日、夕食の材料を買いに家を出たところで、見知らぬ美少女に声を掛けられた。
「貴殿がスズハくんの兄上だろうか?」
「えっと、そういう貴方は?」
「失礼、申し遅れた。わたしは王立最強騎士女学園の生徒会長で、ユズリハ・サクラギという」
「お貴族様じゃないですか」
サクラギ家といえば、この国の伝統的な三大公爵家の一つだ。
その地位と権威は王族に次ぐという、まさに大貴族の中の大貴族。
そして、この国の上級貴族は直系以外に同じ名字を名乗ることを禁止している。
ゆえに名乗った名前が本当である限り、目の前の少女が正真正銘、パリンパリンの大貴族様であることに疑いはない。
「貴殿に話があって家まで伺ったのだが、今よろしいだろうか?」
「もちろんです。汚い家ですがどうぞ」
「とんでもない。失礼する」
踵を返してユズリハさんを家に招き入れる。
お貴族様には決して逆らわない。
これこそ平民が穏便に生き抜くための、おばあちゃんの知恵なのだ。
「今お茶を
「ああ、おかまいなく」
ユズリハさんはそう言ったが、ここで本当にお構いしないわけにもいかない。
家にあった最上級の茶葉で緑茶を淹れ、ありあわせの
「それで、話というのは?」
「ああ。スズハくんに兄の貴殿のことを聞いて、興味が沸いてな」
「スズハにぼくのことを、ですか?」
「不思議そうにしているな、その様子だとスズハくんから話は聞いてないのだろうか? では最初から説明しよう──」
お話を伺って驚いた。
なんでもユズリハさん、スズハが以前タイマンで負けたとか言っていた相手だったのだ。
天下の王立最強騎士女学園の最上級生、それも成績トップがなるらしい生徒会長相手にタイマンすれば負けて当然である。
「ははあ。ウチの愚妹がとんだご迷惑を」
「そうじゃないんだ。元々ウチの学園内では貴族も平民も関係ないし、勝負もわたしの方から仕掛けたことだからね。生徒会役員候補として実力を見るため、新入生の入試成績トップとタイマンで勝負するのは我が校の伝統なんだよ」
「では、その件が問題で来たのではないと」
「もちろんだとも」
なんでもユズリハさんとしては、妹のスズハと戦うのをとても楽しみにしていたのだという。
その理由は、スズハが入学試験の戦闘実技で史上二人目となる「試験官である現役騎士を倒しての合格」なる快挙を成し遂げたからだ。
ちなみにその快挙、一人目は二年前の入試におけるユズリハさんだという。
「──そして入学してからも、わたしは実技訓練でも試験でも、学内で一度も負けたことがなくてね。物足りなかったところに自分と同じことをしでかしたスズハくんが現れて、これは久々に骨のある新入生が現れたと大いに期待したものさ」
「そうでしたか。では、がっかりさせてしまいましたかね」
「とんでもない。わたしの想像するよりも、さらに上だった」
「へえ」
「間違いなく二年前のわたしよりも強かったよ。生徒会長の意地とプライドにかけてギリギリで勝ったが、正直どちらが勝ってもおかしくなかった。それほどスズハくんは強かったのさ」
「ありがとうございます。他ならぬユズリハさんにそう言ってもらえれば、スズハも喜ぶでしょう」
スズハは外面こそいいものの、基本的に他人にあまり興味が無い。
例外は相手が自分と同等、もしくはより強いと認めた相手だ。例えばぼくとかユズリハさんとか。
だからユズリハさんの言葉なら、スズハはきっと嬉しいはず。
「しかもその後、もっと興味深いことが起こった」
あ、これってひょっとして。
「決着が付いた後、スズハくんが予想外のことを言い出してね」
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