29.僕の部屋

 僕の家にはいくつか秘密の部屋がある。誰も見ているはずないのにこっそりそこに行くのが、毎晩の楽しみ。

 まずはひとつめ、赤い扉の部屋。そこには振袖を着た美しいひとたちがいる。格子の向こうから潤んだその瞳で僕を見つめてくる。手を伸ばして僕に触れようとするから、それはいけないことだと教えてあげる。優しく髪に触れて撫でてやると、いつも彼女は静かになる。大人しく俯いて涙を流す。その美しさが僕を癒してくれる。

 ふたつめは紫の扉。向こうにはずらっと美味そうな食事が並んでいるけど、それは食べてはいけない。それぞれ味に合う毒が盛られているから。実験を経てほとんどできあがってはいるはずだけれど、いつも効かずに終わってしまう。今度こそは成功だといいけど。あとで僕が全て平らげて毒の効果について感じてみよう。

 みっつめの扉は白。白衣のお兄さん方がたくさんの研究を進めている。空を飛んだり、魔法を使ったりできる人間を造るためだ。不死を殺し続けるためのアンドロイド開発にも力を入れている。けど、どれも未だ成功はしていない。僕が不老になったくらいで、それ以外は何も。

 最後は僕の部屋。扉は黒めの赤茶色だけど、これはたぶん、内側の色が染み込んでしまったんだ。扉を開けば凄惨な事件の後みたいな景色。でも僕はここで誰かを殺したことはない。自分さえ、殺せない。

 不老不死になって世界を遊び尽くしてやる、なんて思っていたけど、それは間違っていた。楽しいことを見つけても数時間後には飽きてしまう。面白いものを見つけても数分後には壊れてしまう。友人ができても数秒後には死んでしまう。つまらない人生に成り下がった。

 僕はもう、死んだように生きて、死に方を探すことしかできない。


お題「地下一階」

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