26.病の少女

 昔々、あるところに、病弱な白い少女がおりました。その少女は治ることのない病にかかっており、外に出ることができませんでした。窓の外に自分と同じくらいの子どもたちが遊んでいるのを見つけては、逃げるように本に目を縛り付けていました。

 ある日、いつも通り外の世界のことなど考えずに読書をしていたら、少女の元にかわいらしい年上の女の子が現れました。笑顔の似合うその子は少女に微笑みかけ、手を伸ばしました。少女は迷いましたが、手を取ることはせず、女の子と同じような微笑みを作り、手を振りました。

 ――それが発端でした。

 翌日から、少女の家に落書きがされるようになりました。壁には悪口を書かれ、さらに何か鋭利なもので傷付けたあとが見えます。扉もいつの間にか壊されており、誰でも入り放題。そのせいか、いくつか大切なものがなくなっているようです。家にあった食べ物類はほとんど食い散らかされ、薪も奪われているようでした。

 最初は無理にでも笑って家族を励ましていた少女ですが、数週間もこれが続けば状況は悪化しました。母親は泣きわめき、父親は怒り狂い、家が揺れます。少女は何もできず、自分を責めました。自分のせいだ、自分があの手を握っていれば、と。

 少女は苦しさを感じながらも立ち上がり、ひとつの計画を実行することにします。家から出たことがないとはいえ、その分他の子どもたちより知識がありました。それに記憶力も良い。少女は自分をいじめた子たちの顔から名前から住所から、全てを記憶していました。

 翌朝、ベッドで息もせず、心臓を動かすこともなく眠っている少女が見つかりました。しかしそれは別の家でも同じこと。笑顔の似合うあの子も、元気いっぱいに遊んでいた少年たちも、全てが少女と同じように安らかな顔を見せながら息絶えていたのでした。


お題「対価」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る