20.花火の中で

 どん、ひゅるる、ぱん、ぱらぱら、ぱちぱち。

 うるさいほどの音とともに光が落ちてくる。真っ赤な死を降り注いでいる。

 屋台からおいしそうな焼き鳥の、焼きそばの香りがしていた。射的や輪投げ、くじ引きなんかを楽しむ子どもたちで溢れていた。中心には櫓が構えてあって、その上には太鼓を叩く法被の大人がいた。

 ――でも全部、全部炎に変わった。

 何かが焦げている匂いが充満し、視界に入るもの全てが火に包まれている。痛いくらいの光が目に入ってくる。燃え上がった人型の怪物が、怯えた人間に歩み寄って自分の炎を移していく。

 私は逃げられなかった。立ち尽くすばかりで、外側に走り出すことができなかった。母が燃え、弟が泣き出し、父は自分から炎に入っていった。私は、逃げられなかった。

 空に咲く満開の花を見つめ、私は笑む。こんな悲惨な終わりも、美しい。騒がしく、明るく、熱く。生命が終わってゆくのは、こんなにも美しい。


お題「祭りのあと」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る