19.けがれ

 汚い、汚い。と、路地裏に、身体を掻きむしる少年がひとり。傍らには白目をむいて倒れている老人と、身ぐるみ剥がされて動かなくなっている成人女性。その下に広がるのは、真っ赤な血の海。もはや少年の身に纏う服についている血は、彼のものなのか、それとも別の人間から流れ出たものなのか、判断はできなかった。

 彼は、自身の存在すらも小さくするように丸まっている。掻いて掻いて、自分を削って、消そうとでもしているようだった。

 そんな少年に近付く影がひとつ。高いヒール、赤いブローチ、そしてスーツを身につけた女だった。その姿に似合わない幼い顔には、気味の悪い笑みが浮かべられている。

 清めてよ、汚らわしい。少年は虚ろな瞳で、彼女に向かって手を伸ばす。全てを奪おうと言うのか、それとも壊そうとするのか。しかし、彼女は静かにしゃがみこみ、彼とただ手のひらを合わせた。手から手へ、罪が移る。血が重ねられる。確かにあったはずの罪悪感は、ふたつに分かたれた。

 すうっと離れた手のひらの代わりに、今度は唇を合わせる。驚いた彼の瞳は大きく見開かれたが、すぐに受け入れ、力が抜けてゆくようだった。

 彼女が立ち上がり、別の場所へと足を動かし始める。彼がいたはずのその路地裏には、ふたつの死体が残るばかりだった。


お題「クリーニング屋」

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