16.水になる
水になりたい。
いつか君が言った言葉。今でも僕はその意味を理解できないけれど、それでも何となく、君の言いたいことはわかった気がする。気がするってだけだけど。
クラスに馴染めなかった君は、誰も使っていない技術室や多目的室、トイレなんかにまで逃げ込むようになった。そんな場所でひとりきりになってお弁当を食べていたんだよね。僕はそれに気付いていて、手を貸すことをしなかった。助けようともしなかった。これはたぶん、いや絶対に、罪深いことだと今では自覚している。けど僕だって怖かったんだ。君を助けたら――ってね。
単純に君には居場所がなかった。教室のど真ん中にいようが、端っこにいようが、君はきっと充満するその空気感と視線とに押しつぶされてしまっていたんだろう。それだけじゃない。手を差し伸べた人に君は辛く当たった。知っているよ、僕は。
「ねえ、一緒にご飯食べようよ」
その言葉が君をどれだけ苦しめただろう。「一緒に」だなんて。君は伝染するのを恐れていた。一人でいたいと強く願った。それなのに、誰かの温もりを欲しがった。自分が状況に応じて動ける人間だったら、なんてずっとそう思っていたんだよね。
だから水になりたいと願った。
どんな役でも演じられる。どんな風にだって接することができる。誰かに必要とされていて、誰かの成長のためになれる。そんな人になりたいと願ったんだろうね。
君が花になってしまって、それから僕はやっとそれに気付いた。君の役になってみて、やっとわかったんだ。ごめんね。きっともうすぐ、君に会いに行くよ。僕と一緒に水になろう。
お題「水の」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます