15.檻の中の少女

「わからない子だね! 汚らしい!」

 声を荒らげた大きな怪獣は、不幸で無力な少女をぶちました。小さな少女の顔の何倍もある掌に叩かれて、少女は部屋の入口の方へと飛ばされました。頬をさすりながら、少女は怪獣へ視線を戻します。

「お前だけが不真面目だ。お前だけが仕事を怠るんだ。どうしてわからないんだい? 仕事ができないなら元いた場所に戻そうか?」

 それはいや。少女は首を振りながら口を動かしましたが、声が出ません。何日も誰とも話さない日が続いては、力のない少女でなくともこうなるでしょう。

「嫌だろう、そうだろうとも。それなら周りの子たちを見習って、しっかりと仕事をおし」

 涙が出そうになるのに、それでも瞳は何も流しません。この施設へやって来たその日に、涙というものは枯れ果ててしまったのです。涙と共に感情全てが流れ落ちてしまい、少女の小さな身体の中には、何も残っていませんでした。

「そうだねぇ、しかしお前は不真面目で汚らわしくて無力で使えない悪い子だ。しばらく褒美はなしだよ、いいね? 早く掃除の続きに取り掛かりな!」

 猛獣の咆哮が轟きました。かわいそうな少女の鼓膜を揺らし、皮膚を震わせ、髪を逆立たせる、この世のものとは思えない叫びでした。少女はその地べたに縛り付けられたかのように、動けないでいました。返事をしなくては、早く仕事に戻らなくては。頭では考えられるのに、身体は思うように動いてくれません。

「わかったらさっさと出ていきな!」

 ビリッと身体に電流が走ります。これはあの獣のいつもの魔法でした。少女はネジをまかれた玩具のように、すくっと立ち上がりさっと出ていきます。早足で自室に戻りながら、この世界から逃げる方法を考えましたが、そんなものはないと、思い出しました。

 不幸で無力で汚い少女は、この檻から出ることはできないのです。



お題「おやつ」

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