13.空の人魚

 パラパラとうろこが降ってくる。白くて大きくて、たぶん、当たりどころが悪ければ人間なんてすぐに壊れてしまうようなうろこ。

 けれど実際はそんなニュース見たことない。みんながみんな幸運で、当たったことはあれど攻撃を受けたことはないのだと思う。どれだけ運が悪かろうが、そのうろこの軽さに助けられるのだ。

 私も一度だけ、うろこ落下の真下にいたことがあった。あのときはお父さんが「危ない!」って手を引いてくれたから、足が下敷きになっただけですんだ。重さはあまり感じなかった。純白で美しくて、この世のものとは思えなかった。ただただ、転んだときに擦りむいた膝から滲む血とのコントラストを見つめていた。見とれていた。

 あの頃からだったかもしれない。私が空に憧れるようになったのは。

 周りのみんなは、幼稚園や小学校で聞かされた「空には空の人魚が住んでいる」という伝説を信じていなかったけれど、私は未だに信じ続けている。空の人魚がどこかにぶつかったのかもしれないし、うろこがはりかわるときに落ちてくるのかもしれない。もしかしたら、空の人魚の死がそうさせるのかもしれない。

 私は未だに信じている。いつかは崩れる夢だとしても、壊されることがあろうとも、今はまだ、信じているのだ。


お題「うろこ雲」

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