12.遠くへ

 隣にいる君は夕日を見つめながら微笑んでいる。僕はただ、それを盗み見ることしかできない。僕は「幼馴染」なんて特権を持っているのに――持っているからこそかもしれないけど――簡単にそれを乗り越えることができないのがもどかしい。

「ね、大学決めた?」

 君は前を向いたままそう言った。そう言うってことはきっと、君はもう全て決めていて、未来が見えているのだろうと思う。だってそれくらい君の横顔は力強かったのだから。

「私はね、決めたよ。東京に行くんだ」

 うっすらそうだと感じていた。僕から、この故郷から離れていくのだろうと、何となくそう思っていたのだった。

 重力に従順な自転車を押しながら、僕は君において行かれないように歩き続けている。だけど、それだけでいいのか、わからなくなってきていた。

 君はゆっくりこちらを向いて、微笑んだ。

「離ればなれになっても、手紙送るからね」

 笑顔を作って見せる。僕はきっとこのままここから動けないんだ。前に進もうとしているというのに、後ろに引っ張られて、その場に縛り付けられたままなのだ。気持ちを伝えることもできず、飛行機に乗り込もうとする君を、笑顔で手を振って見送るのだろうな。

「……手紙か、楽しみにしてるよ」


お題「坂道」

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