11.秘密

 私はその日、何故だか、あなたの後ろを追いかけるべきだと感じていた。信じていない訳ではない。けれど、それでも直感的に、あなたが何か、私に隠していることがあると思ったのだった。

 けれど、こんなにも大きな秘密を抱えているなんて、知らなかった。知りたくなかった。

 あなたは人気ひとけの少ないその場所で、乾いた笑い声を上げていた。幾つかの不思議な影の目の前で、それを見つめて笑っていた。暗くてよく見えなかったけれど、あれはきっと――。

 あなたはゆらりと振り返る。あなたの重大な秘密を見てしまった私は、本当なら逃げなくてはならないのに、動くことができなかった。まずい、このままではきっと私も、あの暗がりに転がっているアレと同じようにされてしまうのだ。

 そう覚悟したのに、聞こえてきたのは全く反対の色だった。

「あれ、どうしてこんなところにいるの、危ないよ」

 あなたはにこりと笑って、私の手を取った。

「ほら一緒に帰ろう」

 あんなことをしておいて、あなたは私に笑いかける。惨い罪を犯しておいて、あなたは私を優しく包み込む。どうして? どうしてそんなことができるの? 怖くなって声が出せなかった。

 震えている私を、あなたは不思議そうな顔で覗き込んで。それから握った手を引き、私を抱き締めてくれた。温かい。涙が出そうなくらい……いや。今は、私が何を感じているのか、自分のことなのにわからない。

「大丈夫、君のことは絶対に守るから」

 耳元で囁いたあなたの言葉はいつも通りで、けれどいつも通りには戻れないと確信していた。


お題「からりと」

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