6.姉の仕事

 辺りは暗い。ボロボロの私たちの家には隙間風がビュウビュウと入り込んでいる。どれだけ毛布にくるまってみても、どれだけ火を近くに寄せてみても、寒さは変わらない。どうしたって暖かくなんてならない。

 ガサガサと物音がして、全く同じ顔の弟が入ってくる。無理に笑顔を作っているのがわかりやすい。彼は私に心配させまいと、いつだって変な笑みを浮かべている。もし私が妹であれば少し騙されてやることもできたのだろうが、同い年同じ顔同じ心、そんなことは手に取るように気付いてしまうのだった。

「ね、これ」

 嬉しそうに彼は手で包んでいたものを私の目の前に出す。六つか七つの、ただのどんぐりだった。簡単に食べられる訳でもなく、見ていてとてつもなく楽しい訳でもない。それなのに彼があまりにも嬉しそうに楽しそうに見せてくるものだから、私もつられて少し微笑んでしまった。

「ただのどんぐりじゃないの」

「違うよ、ほら」

 彼はころころとどんぐりをひっくり返していく。裏にはかわいらしい顔が描かれていた。たぶん、彼が描いたのもあるのだろうが、どこかの誰かが捨てたものなのだろう。それを見つけて真似した、そんなところだ。何となく、目頭が熱くなるのを感じた。

「こういうの好きでしょ」

「正解」

 双子だから何でもわかるんだよ、彼は小さく笑って再び外に出て行った。

 私はこの中から出ることはできない。だから彼が全てをやってくれる。その日の食べ物調達から、この家というかこの段ボールで囲われた私たちの場所の補修まで、全部が彼の仕事だ。それから、私に外の世界を見せてくれることも、彼の役割。

 私はといえば……もう長くないだろうことを感じている。弟の前では絶対に見せたりしないが、最近酷い咳が出るようになった。一緒に血も吐き出すような、内臓が弱っているのを痛感してしまうような、そんな日常なのだ。

 もうそろそろ、彼に何かを残してやらないと。彼から離れてやらないと。冷たくなった私が近くにいては、彼の邪魔になるだろうから。

 あぁ、だけど。あと少しだけ。少しで良いから、傍にいさせて。

 ゆっくり目を閉じた。


お題「どんぐり」

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