5.秋の夜の誘惑
山の奥、長く続く階段の入口に火が灯る。ふわりと揺れて、全てを誘い出す。その隣には手招をしている「何か」が見える。
「それ」はにこりと笑うと、そのまま神社の方へと駆け出した。四足歩行の軽やかなリズムが聞こえる。ぼんやりと灯っていた火が、鮮やかに生き生きとし始めたかと思えば、再びふわりと揺れて、それから「それ」について行く。
きっと、人間を誘惑しているのだろう。
誘われるままついて行けば、美しくも儚い、古びた社が現れる。神秘的であるのに、どうだろう、蜘蛛の巣は張り巡らされ、所々腐ってしまっている。かつてはこの辺り一帯を守っていたと言われる、偉大な神が眠っているそうだ。しかしこんな風に全てから忘れ去られてしまえば、その神もきっとふて腐れているに違いない。
だからこの町は廃れたのだろう。
野生の動物に畑を荒らされ、町に生命が増えることもなく、必ず死に至る病が蔓延した。町の人たちは死にゆく一方だった。きっとあのとき、この社のことを思い出し、再び神に祈りを捧げたならいくらかマシだったのだろうに。
社の目の前には、不思議な少女が立っていた。その頭上には先程の灯が楽しそうに浮いている。
「ありがとう、私のことを思い出してくれて」
彼女はそう言うと嬉しそうに目を細めてから、私の手を取った。
それは満月の夜のことだった――。
お題「秋灯」
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