3.案山子

「なあ、かぼやま。おれはもう大丈夫かなあ」

 ――なあに、お前が心配するようなことはない。私は信じているさ。お前のために全てが好転していくことを。

「はあぁ、憂鬱なんだ。この村から出なくちゃならないなんて……一度も考えたことがなかったからさ」

 ――馬鹿だなあ。お前はそんなことは考えなくていいのだよ。私が見守っているのだから。今までだって何も大きな問題はなかったじゃないか。確かに、小さなことの積み重ねで辛いときはなかったでもないが……それくらいなんてことない。

「おれはさあ、まだ離れたくないんだ。婿に行くからってここから出て行かないとダメなのかな、本当に」

 ――お前の気持ちだってわかるさ。しかしな、お前じゃないとダメなんだ。仕方ないだろう。私が変わってやれるならそれが良かったが、そんなことは無理なんだ。すまない。

「でもさ、おれは帰って来るよ。いつか、かぼやまに会いに、また来るよ」


 立ち上がったお前の背中には覚悟の炎が宿っていた。それだけで充分だった。私はお前を信じる。きっと村が失われる前に、また、会える。そうしてもう一度、村が栄えるのを私たちで見届けるのだ。

 あれからどれくらい経ったろうか。

 いくら待てどもお前は帰ってこなかった。この身体に蟻が這い、立っていることもままならなくなったが、それでもお前は村には来なかった。

 村の人口は減っていくばかりで、私には止めようがなかった。いや、元から私には止める力などなかった。わかっていた。見つめること、見守ることしかできないと知っていたのだ。けれど祈ってはいた。お前の分まで星に、神に、世界に祈りを捧げていた。

 お前が丹精込めてくりぬいてくれた私の顔は、ぼとりと落ちた。お前が帰ってくるのを、ついぞ見ることなく、腐り果てた。

 虫に食われているのを感じながら、お前は今どこにいるのだろうかと、最期の思考を巡らせた。


お題「かぼちゃ」

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