37.頼れる猫
✝ ✝ ✝
ジョンはそこで夢をみる。
父親の夢。
まだ優しい顔をしていて、
ジョンの頭をなでてくれてた父親だった頃のことを。
彼はまだ広い庭が大好きではれた日には駆け回っていた。
「お前にいいことを教えてやろう。猫は幸せの象徴だ」
「だって黒は不吉を意味するんでしょう?」
「ある国ではな。でも父さんはそう教わったんだ。
ああそうだ。お前も覚えておけよ。私はこの猫にすべてを託してあるんだ」
幼い彼が見たのは小さな黒猫。
かわいらしく鳴いて顔を洗うしぐさをする。
その猫は父親の足元から離れようとしない。
「こいつが死んだとしてもその子孫にお前の世話を頼んでおく。
こいつは猫の中で頭がいい。
子孫も俺達をみてくれるはずだ。困ったときには猫を頼れ」
そうして短い再開の時間は終わってしまった。
朝が来てジョンは重いまぶたをこじ開けた。
夢のお告げのように思える今朝の夢。
カナに話すとこういった。
「そのときの猫ってどうなったんだ?」
引き渡され、ロサンの町でそばにいたその猫はふっといなくなってしまった。
なにせここまでの道は茂みの多い森を進んできたのだ。
人目を気にしていくあまり、
猫のことは頭から消えていた三人である。
「都合よくいるわけ……」
ニャーォ
黒い猫はチョコンと座っていた。
どうしてこの猫がここにいるのであろうか。
出会った時は丸々と太っていた。
長旅で体重が落ちたようで、普通の猫と変わらない外見となっていた。
「ジョン?」
レオナの問いかけに嬉しそうに答えるその猫は確かにジョンとも呼ばれ、リミットとも名づけられた猫だった。
レオナについてきた猫だ。
レオナはしゃがんで猫に問いかける。
「鍵の場所とか知らない?」
何度も何度も根気よく繰り返す。
猫はクルリと向きを変え走っていく。
レオナ達からしばらく離れたところで座り込み、こちらを見る。
「こっちへ来いってことかな」
周囲に気を配りながら移動する。
幸いにも村娘以外の人にはここはさびれたところという認識しか無い。
人はなかなか通らない。
レオナ達は自然を装ってついていくことにした。
律儀に猫はレオナ達の様子を見ながら進んでいく。
また幸運なことに猫が通るのは茂みばかりで人目を気にする必要はない。
海に近くなっていく。
「綺麗な海ね」
光って凄く綺麗。
ここの地域はまったく汚れていない。
海水は透明。
猫は波打ち際で止まった。
ニャー
すり寄ってきた猫はここで案内は終わりとばかりにレオナの足もとで座った。
「ここか」
ジョンが周りを調べると洞窟があった。潮の満ちかけで埋まってしまうその場所。
「これから行ってくる」
待ったとをかけたのはカナ。
「危ないわ。これから満ちてくる。
それまでに帰ってこれると思うのは危険だわ。
中がどうなっているのか分からないんだから」
彼女の言うことは正論だ。
しかし今の時期は泳ごうと思えばまだ海に入れる季節だ。
出来ることなら早く確かめておきたい。
誰かに見られるかもしれない外で長居するのは避けたい。
「なら行くしかないだろ」
ジョンは潜水に自信がある。
もっともここ数年は海辺にもいっていない。
そしてだれにも言っていないことではあるが、
足に追っている後遺症は年々酷くなっているようだ。
カナに気付かれないほどの軽度なものだったはずなのに。
心配されるほどに進行してしまっている。
ジョンは衰えを感じながらも波打ち際に向かっていった。
「そうね。子船が欲しかったけど仕方ないわ。無理はしないでね」
そんなジョンの葛藤を知ってか知らずか、
慎重なカナはそう返事するにとどめた。
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