38.水中の懸念

 ✝ ✝ ✝


 胸のあたりまで水に浸かっていたままで心配は吹き飛んだ。

 やっぱりおれは潮流になれている。


 海が好きだから。


 水の中ではすごしだけ音に変化があるから。

 表面で動くのと深くもぐって動くのとではなんか違う。


 その違いが面白い。


 違いを楽しんでばかりもはいられない。

 夕方からそろそろ夜に移り変わる。


 そうすればどこへ進んでいいか分からなくなるのだろう。


 太陽は沈んでしまいそうだが、まだ水中は見える。

 体温が奪われそうだと危惧しながら、入口を探す。


 まだそれほど潮は満ちていないらしい。


 サバっとあがり、周囲を確認した。

 三本分かれている。

 時間的に一本しか確かめる時間はなさそうだ。


「右が好きだからそっちに進もう」


 案外短絡的な思考をもっているジョンだった。


 とはいっても膝あたりまで水に浸かっている為に歩くのに大変な苦労を要する。

 重たい足を引きずってようやく丸い場所に出た。

 小箱が合った。

 なにやら奥まった所にあった。

 その木庭のこの上には彫り物が合った。


「ここは水が来ない唯一の場所なり。鍵は此処にあり」


 洞窟の出っ張りにあうように箱を作ったのだろうか。

 両脇の突起に挟まるようにして小箱が浮いていた。


「これ何年のうちに発見されるように作ったんだか。下手すりゃ流れているぞ」


 そんなことをぼやきつつ、中身の確認をした。

 中には金色の鍵と紙が入っていた。

 ジョンは確認する。

 水につけても耐えられる紙質であるらしいことを確かめて、彼はまた潜る。


 帰る頃にはかなり潮が満ちてきていて、流れも速くなっていた。


「プッハ」


 なんとか岸に上がることが出来た。

 しかしおそれていたことが起きてしまった。

 海に入った地点から離れた所に出てしまったらしく、

 レオナ達の姿を見つけることができない。


「どうするかな。寒いし。見つかったらどう言い訳すればいいものか」


 彼は道が分からない困惑と、寒さと、

 誰かに見つかったらどうしようと考えていた。

 彼の姿は半裸だ。

 もし貴夫人が見たら卒倒ものだと悠長に考えている。



 ちなみに此処は突風が吹いて高波になり易いということで、

 住民たちは近ずかないようにしているということを彼は知らない。


「いた。ここだよ」


 レオナの声がする。


「やっぱりちゃんと元の場所に上がれなかったじゃん」

「うるさい。ちゃんと縄とか用意してたのに切れたのがいけないんだ」


 当然のように乾いた布を投げつける彼女たち。

 きちんと上がった時の準備もしてくれていたらしい。

 ジョンの体は冷え切っていて、

 人間の体温とはほど遠かった。


「とりあえず戻りましょうか」


 頷き戻っていると、カナが訊いた。

「なにかあった?」


「かぎがあった」


 そのカギをドアに差し込んでみると、ガチャリと開いた。


 中に入ると多少荒らされた様子は見られる。

 主人の使われ方が残っているあたり、左程心配することもなさそうだ。


「すごいな。当時のままだぜ」


 ジョンが感心した様子で館の中を進んでいく。

 カナは部屋にはいって驚いた。


 部屋一面紙だらけ。


 レオナはバタバタと家の探索をした。

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