36.娘たちのうわさ話
「下級地区の犯罪者を捕まえれば300万アールだって噂だよ。
それがあればこんな苦しい作業しなくて済むのにね」
「もっとも私らだけじゃそんな人たち捕まえるのも無理な話だよ。
もっと力がないとね」
「そうね。あんがい人気のないこんな屋敷に隠れているんじゃないかい?」
「こわいこと言わないでよ」
そんな議論をしていたレオナ達は顔を見合わせた。
「大丈夫よ。ここならば彼女たちにはみえない。これまでの人の気配はなかったわ」
周囲に気を配っていたカナは二人にきこえるかきこえないかという音量で囁いた。
女たちが去っていき、さらに周囲に注意を巡らせるのであった。
とりあえず身を隠す場所として家の近くにある大きな木に目をつけた。
そこは丈夫な枝が十以上ある。
レオナ達だからこそ、そこで過ごすことができる。
常人だったら一度上ることさえ難しく、
下手をするとバランスを崩して落ちてしまう高さだ。
そこで一晩考えることにした一行だった。
疲労がたまっていたのかレオナは先に寝てしまった。
カナはなしかける。
「なんでレオを殺したの?」
「説明したと思ったんだがな」
カナには納得いかなかった。
「不器用だから仕方なかったなんて逃げ許されるとは思えない」
その意見に答えが返ってくることはなかった。
「兄弟のことだから口だしすることじゃないかも知れないが、
復讐に燃えているレオナは相当あんたを恨んでいたよ」
私にできることはほとんどなかった。
「見ていることらが辛いくらいでね。
毒の耐性をつけているときほど自分をコントロールできないものはないだろ」
「ああ。苦しいぜ。相当な」
「もがいている中でレオとのことを思い出してた。記録したもの見てくれるかしら」
明りをつけると都合が悪い状況は二人とも理解しているから沈黙が落ちる。
「……5分だけだぜ」
ジョンがランタンに明かりをともし、カナが懐からノートを取り出した。
定住することのないかナだからいつも懐に入れていた。
そのおかげでボロボロになってしまったが、きちんと字は読める。
ジョンはさっと目を通してみる。
「そっか。こんなことあったんだな。この続き書いてもいいか?」
カナだけで前ページの半分以上埋めてしまった。
「どうぞ」
カリカリと筆を走らせて3分もたたないうちにパタンと閉じてしまった。
「返すぜ」
カナはペンとノートを受け取り、ランタンの明かりを消した。
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