35.故郷へ
話が反れそうな二人を元の話に引き戻したのはレオナだった。
「でもおかしくはない? それ何年前の話? 今さら掘り返す話ではないよね」
「現在、リマの権力者さんは私が殺した男の奥さんだったはず。
眼をつけられてるのは当然ね。住民が捕まったのは地区が情報流したから」
リマの住人は殆どがお尋ね者だ。まだまだ捕まる者は大勢いるだろう。
「犯罪の大部分は長老が采配していたのに……幹部たちはリストと引き換えに安全を買いやがったわね」
「だろうな。さて、俺達は行くとこがないわけだ。これじゃあ仕方がない。
野たれ死ぬか捕まりに行くかのどちらかになる」
「確かに。どうせバラバラに手配していくだろうから
犯罪者の集団を作ることはできないわね」
「最近貴族派を暗殺してしまったからだいぶ身辺に注意を払うだろうしね」
「こんな時に聞くのも何なんだけど。カナ姐だれか頼れる人いないの? 親族とか兄弟とか」
カナは呆れたように一つ溜息を洩らした。
「居ない。私だって捨てられた子供なんだから。あんた達のほうがよっぽどいるんじゃない?」
レオナの脳裏にレオの顔が思い浮かんだ。
「あ、レオ兄は土地を買ったっていった」
カナと四六時中行動を共にしている。
家には帰れなくなっていることに気づいてから、
大切なものは肌身離さないことを心掛けていた。
「たしかここにいれたはず」
レオナはしばらく荷物を漁っていた。
「その手があったか。まだレオが権利者だといいんだがな」
レオナが胸ポケットから権利書を取り出した。
「よし。場所も書いてあるな。ここへ行ってみるか」
結論とも言えない答えにカナはがっくりと肩を落としたのだった。
✝ ✝ ✝
三人はこっそりと歩いていた。
幸いにも森が細長く続いている地形だったことで逃避行は順調に進んでいった。
幸いにも季節は夏から秋の変わり目だ。
食料は組み地に生えている野草や果物を食べてなんとかしのいでいた。
一週間ほどすすだときに道はがらりと変わった。
森ばかりで先が見えないような山道から海岸に面した通りにたどり着いた。
そこに一軒だけ家が建っていた。
潮風にさらされて木製の郵便受けは腐食していて壁も傷んでいる。
ガラスには外側からかかれたのだろうか、
子供のいたずら書きが見て取れた。
立派な建物であるけれど何年も手入れされていないことがわかる。
「見覚えがある。ここは親父の家か!」
ジョンは微かな記憶と合致した建物をみて声を上げた。
「え? ここは中級の地区じゃない!」
「親父の腹じゃリマ地区を下僕に使いたかったんだろうが、
逆にやばい薬の常習者にされてた。
なんでどこまで信用出来るかわかったもんじゃないが」
風雨にさらされて木目の色がわからないほどに汚れた階段を上って玄関にたどり着く。
きちんと役割を果たすのかもわからないほど。汚れている扉にジョンは触れる。
「だめだな。鍵がかかっている」
一番簡単な方法は窓を壊して入る方法だ。
いつもなら躊躇うこともなくその手段を使うであろう。
カナが家の周囲を調べて口を開く。
「窓があるのは街道に面しているほうだけなのだもの。
窓が壊れていることで周りの人に違和感をもたれるわけにはいかない」
彼女たちにとって他に行く場所はないのだ。慎重に行動すべきだ。
「そうね。何年も盗難の被害にあってないみたいだし、なるべくなら変化を与えないほうがいいわね」
レオナは振り返って、ハッとした。
足音が聞こえる。
パタパタと足取りのかるい音、それも複数。
「やっと休憩ね」
やってきたのは農作業の休憩をもらった村娘。
18歳くらいだろうか。
彼女たち2、3人の集団が息抜きの場所として、
使われていないこの家を選んだのだ。
彼女たちの会話は仕事内容が厳しいこと、
もっとお金持ちになりたいということ、
そしてレオナ達のことだった。
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