33.愛情のゆがみ

 ジョンは言葉をどれも跳ね除けた。

「嫌だね。惨めだ。俺はお前に始末されたいんだ」

 果てしない堂々廻り。でもこれはジョンの歪みなのだ。こ

 れを正すことが出来たなら――

「だから殺してあげるよ。関係ない人を巻き込む前に」

 ジョンはどうしてと首を傾げる。

「どうしてお前は関係ない者を庇おうとするんだ? 人はすぐに死ぬから遊んでもいいんだ」

「兄さんこそ、どうしてそんな事言うの? だって私は淋しかったから。

 レオ兄がいたってどこか淋しかった。

 それはあなたがそろってないから淋しかったの。

 家族揃って笑っていたかった」


「詭弁だ。それは叶わない。だって暴力しかない生活をしていたのだから」


「レオ兄もママも、会ったことないパパも自分勝手だ。

 結局死に逃げただけじゃない!」


「そうかもな。でも今更変えられない。俺はこの道を進むだけだ」


「……止めるわ。全力で」


 そういってはみたものの、彼女は不安だった。

 カナとレオに過保護なまでに守られていたのだ。

 自分の意思で闇の世界に何年もいるジョンを防げるのか分からなかった。

 カナの訓練を受けて、彼女から合格だと言ってはもらえた。

 しかし、実際に彼と対峙すると威圧される。


「そんなこと言って迷っているうちはまだまだだな」

 ジョンは後ろに置いてある数十ある爆弾のうち数個に火をつけ、

 小高い丘から下の街へ投げて行った。


「これでこの町は終わりだ」


 人々が生活している市街地で、彼は躊躇なく爆弾を点火した。


 数秒後にはドカンという音とともに人々の逃げ惑う悲鳴と物音が聞こえた。


「もっといろんな場所に落としたいぜ。さあレオナ止められるかな?」

「これで爆弾は使えないわっ!」

 レオナは持っていた飲み水を導火線にかけた。

 挑発はしていても実際に阻まれるとは思っていなかったのか舌打ちをした。

「ふざけるな。そんなことで防いでも何もなりはしない」

「兄さん。私がいるから。レオ兄がつけてくれた猫のジョンだっているから! 

 考え直して!」


 再三の言葉にぐらりと彼の瞳が揺れた。


「俺は……レオを殺したんだ。あいつの望みだったけれど俺は殺したくはなかった」


 ジョンはレオナだけでなくレオにもまっとうな生活をして欲しかったのだ。

 若いころは養う力はなかったけれど力をつけた今ならばそれができたはずだった。


「圧力に負けたんだ」


 闇の世界での今の信用を失えば何も守れない。


 だからあんなことをした。ジョンはそんな行動しかできない自分を恨んでいた。


「最期にレオ兄は『俺の代わりを頼んだぞ』っていったけどあれはカナ姐に対してだけじゃなくてジョン兄にも向けていたんだよ」


 レオナが優しく言うとジョンは子供の様にうなずいた。


「これが最後のお願い。ずっと私と生きて。私の名前を呼んでほしいから」

 彼はレオナに近づいた。


 「レオナ・リファード」

「呼んでくれてありがとう。ライレオ・リファード・ジョーン兄さん」

 ジョンは嬉しそうに笑った。

「覚えてたのか。初めて名前呼ばれたな」

 ほのぼのとした雰囲気の中レオナとジョンは現実に引き戻されることになる。

「レオナ!」

 そこに現れたのはカナだった。

「何やってんのさ。ここから離れるよ」

「は? なんだ。カナどうしてここに」

「使い物にならないのは足だけにして。

 リマ地区の長老たちがあんたら兄弟のどちらかの首を差し出せって

 言ったこと忘れてんの?」

 



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