30.本当の家族

「私がいけなかったの?」

「そうじゃない。お偉いさんってのはお前の母親。相手が悪かっただけだ。だから」

 婉曲に話しているが、主題をずらさないためにカナは言葉を選ばず言った。

「だからなんなのよ。ジョン。母親をあんたが殺そうとでも言うわけ?」

「ああ」

「やめて! 引き金はあんたが兄さんを殺したことよ。それからおかしくなったんだもの。母親は関係ないじゃない」

「いいや。関係あるさ。親父を止めてくれたら、殺しやと親密にならなかったら、俺達を捨てなかったら。どんな生活が出来たと思う? 上等な服を着て、食う者にも困らない。夢の様な生活がおくれたろうにな。

 彼は笑った。

「これからお前の母親を殺す。誰かもわからないお前には守ることもできないさ」

 固まるレオナに変わり、カナが怒りをいだいたまま前に出る。

「そう言うことだったら私が行かせないわ」

「カナ、分かっているだろう。お前は弱い。おれを止めることはできないだろうぜ」

「左脚引きずってるね。骨折しているの?」

 ジョンは舌打ちをして臨戦態勢をとる。

「病んで死にかけの人間に骨折られたものでね」

 カナに向かって太い梁を投げた。

「バカじゃないの? そんな攻撃で私は倒れないわ」

 ジョンだってそれは分かっているはずなのに、攻撃を止めない。

(何かを待っているとでもいうのかしら。気味の悪い攻撃だわ)

 暫くしてより一層攻撃が激しくなりレオナにも当たりそうになる。

「レオナ。あの針には解毒不能の毒が仕込まれているはずよ。気をつけて」

「ハイ」

 二人で避ける羽目になるがジョンは隙を見せないためにレオナの体力が尽きるまでいくらもかからなかった。

「どうだ?レオナじゃ無理だったろう。まあ俺も武器が切れたしそろそろ時間だな」

 彼は急に攻撃を止めてしまった。

「お前母親を知っているか?」

 レオナの呼吸が荒く酷く疲れていることは分かる。声を出すこともつらいのか肯くだけにとどめた。

 その様子を見てジョンは楽しそうにたたみかける。

「母親の今の状況は知りたくないのか? 今の地位、今の奴の状況、知りたくはないのか?」

「あの人は私を覚えているの?」

「ああ。かなり会いたくはなさそうだった。毎日毎日脅えていたようだったぜ」

 心のどこかでいつか会いたいと願っていたレオナの顔は一気に曇ってしまった。

「そんな――」

「この子をどれだけ傷つけるつもりよ。母親に復讐は、眼のとどかないところでやるんだね」

 カナの言葉に驚いたように顔を向けた。

「意外だな。レオナは俺を殺したら母親も殺すんだろ。目の前だろうと関係ないじゃないか?」

 ジョンは単純にレオナが血縁者を恨んでいると思っているようだ。

「ふざけんじゃ――」

「ジョン!」

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