21.夫人の悪夢
✝ ✝ ✝
あの専属官吏のジョンを雇ってからというもの、眠ると決まって遙か昔の夢を視る。なぜ今になって夢に出てくるのだろうと疑問に思う。
何時もわたくしは第三者の視点からすべてを見ている。
今回だって目の前にいるのは昔のわたくし。
昔は彼の家に住んでいた。
海が綺麗なところで暑い夏になるといつもそこで過ごしていた。
暴力的なる前までは。
耐えかねたある日、聞くことにした。
「旦那さま。あの娘たちはどこへ行きましたの?」
幼い子供たちは母親であるわたくしを必要としているはずだった。
心配して夫に問い詰めるとすぐさま顔面を殴られた。
「あんな餓鬼ども、のたれ死ね。俺を見ないあいつらは」
「3兄妹を引き離して、長兄だけ残すのは何故です? ばらばらに生きるなんて可哀想ですわ」
興奮した夫に《間違っている》なんて直接の非難は通じないから婉曲な言葉づかいを心がける。
「何故だと? 愚かなことを聞くもんだ。俺は後継者が欲しい。ただそれだけだ。だから兄弟はいらない」
「そんな」
「不満があるなら俺を殺せよ。簡単だろ? それでお前は自由になれる」
(この時に私が別れていれば)
途端に眩しい光で辺りが見えなくなった。
(これは場面が変わる合図なの。いつもと変わらないのね)
目を開けた時、安堵した。長い苦しみから開放された記念すべき日だった。
夫は病に罹り病床で嘆いていたわたくしが見えた。
「俺の後継者は他でもないお前だ」
手元に残しておいた息子に命令して、息を引き取った。
「お父様の仕事を継がなくていいのでよ?」
顔色をうかがうと、そこには無垢な息子はいなかった。
「何で? 母様。人の命は脆いよ。自然に無くなるんだからその前にちょっと僕が遊んだっていいでしょう?」
そう言って笑うのだ。
この上もなく綺麗に。
そんな息子にかける言葉が見つからないまま、ズルズルと過ごしていた。
一番下の子が話せるようになり、やっと穏やかな日々を過ごせると思った。
3人の兄妹は何の問題もないと思っていたのに。
1番上の息子が12歳になる誕生日だった。彼は忽然と姿を消したのだ。
『お前のせいだ』
夢の中で夫と息子は何度も叫ぶ。
この声は幾重にも重なって私を追い詰める。弁解しようと納得されない。
――いや。やめて。やめて!――
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