20.初めての事件
✝ ✝ ✝
ゆっくり目的地に向かって歩いてゆくと屋敷が見え、さらに入って行くと使用人らしき男が話しかけてきた。
「どちらさまでしょうか?主は出かけておりますが」
「私は布を売り生計を立てている者です。こちらの屋敷にとても合う柄がございまして」
身なりを綺麗にして旅の商人と名乗れば勘違いする。とはカナの教えの賜物だ。
「では客間でお待ちください」
レオナの村ではこのような訪れ人は犯罪人との意識があるが平和ボケがあり警戒心の弱い地域も少なくないのだ。
「どうぞ触って下さい。当主様だけでなく沢山の方に素材の良さを知ってほしいものですから」
ついてくれた男に布を触るように勧めると微笑んで触れてきた。
「なんと触り心地が良いのでしょうか。皆様にも感想を戴きましょう」
そう言って他の仲間や給仕たちを呼んでは触ってゆく。布を売っている商人がやってきたと知ると彼らはためらいもなく触っては感想をくれた。
ある程度時間が経過した時彼女は言った。
「大変申し訳ないのですが、もう一つの屋敷を訪れなくてはならないのでこれで失礼させて頂きます」
「主には会わないのですか? なんでしたら伝言でも」
「いいえ。またいずれ来ることもあるでしょうから今日はこれで」
席を立ち玄関へ向かうまでまた来てくださいと言われたが、
彼女は薄く笑うだけに留めた。
地区をくぎる門を出ると、近くの大木にカナが寄り掛かって待っていた。
「どうだったんだい?」
「成功よ。使用人を巻き込んでしまったのは残念だけどね。もう仕事終わったの?」
「レオナが遅いだけよ。カナ様にとって余裕よ」
「そっかぁ」
レオナは仕事ムードから離れてしまっているが、
経験豊富な暗殺者はまだピリピリとしている。
「さっさと証拠は捨ててしまうことだね。毒付きの布なんかは、分かりやすいから」
触らせた布には洗っても落ちにくく、体内に入れば数秒で絶命する毒が仕込んであった。カナが改良に改良を重ねて作ったものだけにばれ難いだろう。
「給仕に触らせたのならいずれ主も死ぬだろう。
あの毒を屋敷から排除は出来ないからね」
「分かっていたことだけどカナ姐って怖いんだね」
「副業に関してはこんなものさ。次に行くとしようじゃないか」
レオナは頷いた。まだ11名のノルマが残っている。
「上級地区が一件、中級地区が三件、下級地区が七件ってところかな」
カナの情報処理に感謝しつつ、レオナは顔をしかめた。
「世間に怪しまれないように消さなきゃならない。かと言って短期間に集中させてもダメ。慎重に行動してたら間に合わないし」
「そんなの考えてちゃだめだぞ。適当にやったほうがいいんだ。こんな重い仕事」
先輩の分かりやすい説明にかたの力が抜けた。
「頑張ろっと」
ニコッと笑うレオナにまだ昔の面影を感じ取りカナはほっと息をついたのだった。
✝ ✝ ✝
レオナの実力判定試験の期限まで残り5日となった26日目には標的は2人となっていた。
「レオナ、こんな短期間でよくこなしているな。ばれる気配がないからいいけれど」
世間話をしているように呑気な口調でレオナは答える。
「そんなの気にしていられないよ。私に必要なのは殺しの技術と、何をしても咎められない権力なのだから」
カナの目から見てもレオナは聡い。
自分がこれから何をしようとしているのか、
そのためには何が求められるのか分かっている。
「解ったよ。じゃあ次は最高安全地区だ。私は追われているから今までよりも近くに行けないが気をつけろ」
「解ってるよ。あ、巧くいったら何で追われてるのか聞かせてね」
ウインクして出かけて行った。
「警戒しなよ。隠された歴史が沢山あるんだよ。あそこには」
カナは苦い顔をして弟子が歩いているであろう方角を見やった。
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