18.手始めに
「思ったよりもお高いですね。ですが戴きましょう」
夫人は財布を確認して少し困った顔をした。
「手持ちが少し少なくて。これでもよろしいかしら?」
夫人が差し出したのは嵌めていた指輪だった。
「質屋も承っていますのでご心配には及びません。少々お待ちを」
上機嫌に布を見る彼女は本当に幸せそうだ。暫く世間話をして盗人の彼女は立ち去った。もちろん帰ってくるはずはない。
「遅いですわね。どうしたのでしょうか」
他人にお金を預けたのだから時間がかかれば苛立ちが募るのも道理だろう。
「高価なものですから心配でしょう。見てきますね」
「ありがとうございます。お気をつけて」
レオナは夫人を離れる寸前に唇の動きだけでごめんなさいと謝罪した。それだけで夫人との接点は消えうせる。カナはすでに店内からでていて、沈んだ表情のレオナに笑いかけた。
「さすがカナ姐直伝の演技はすごいね」
「ああ! これで度胸付いただろ」
レオナは胸を痛めたがこれが宿命と受け止めて前に進んだのだった。
彼女はこれがきっかけで自信がついたのかこれ以降、豪華な服を着ている人を見つけたら、すれ違う際に話しかけて油断させ、躊躇いもなく財布を奪う。
それを何回、何十回と繰り返してよりばれない盗みかたを学んで行った。
もちろん、兄の敵討ちのためにカナの暗殺依頼の場にも顔をだして腕を磨いていった。
✝ ✝ ✝
一年も経てば月の収入は倍になり、レオが残した金貨を上回ってしまった。
スリの腕は超一流だが、暗殺はまだしたことがない。人の命を奪うことに罪悪感がぬぐいきれないことが原因だった。痺れを切らしたカナが行動に出ることにした。カナは下級地区中心街のある建物にレオナを案内した。
「こんなところに何の用なのよ?」
「汚いとこだろ。ここが下級地区犯罪組織の会合場所なんだ」
レオナはその言葉に疑いの目を向けた。
「ここが?」
レオナが信じられないと声をあげたのもそのはず。その建物は半分以上の屋根は剥がれ落ち、日の光が零れてくる。しかも椅子やテーブルはなく部屋を埋めるのは枯れ葉だけ。
どうみても身分の高い人が足を踏み入れる場所ではない。
「まあ少し待ってな。幹部が来るから」
レオナが落ちつかなげにしていると、続々と人相の悪い者たちがきた。あるものは葉巻を吸い、あるものは文句をつけた。ここに集まってくるのは組織の関係者のはずなのだが、ピリピリとした緊張感に包まれている。
床に腰をおろして何事か待っているようだ。
最後に入ってきた白髪の老人はゆったりと座った。低い声で厳かに言った。
「会議の開始じゃ」
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